おはなし

□カウントダウン
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深夜、売人に電話をするとすぐにクスリを持ってきてくれるということで、ルミカの胸は高鳴った。別になにか嫌なことがあったわけでもなく、ただ単に口さみしいというだけの理由で自らの身体に薬物を注ぎ入れるのはルミカ自身、どうかと思ったが、それでも売人に連絡する手を止めることは出来なかった。

金の関係であまりたくさんの量を買うことが出来なかったが、ルミカはそれでも満足だった。なんせ、かれこれ半月もクスリをキメる生活から遠ざかっていたからだ。最早身体は、クスリへの渇望で悲鳴を上げてたまらなかった。

売人との電話を切ったあと、ルミカはワクワクのあまり、ぶるっと武者震いをした。それから急いで服を着替えると、アパートのドアノブを勢いよくひねった。

外に出ると、月は見えなかった。たとえ月が出ていたとしても、今のルミカには意味をなさなかっただろう。歩きながら煙草を口に咥えると、白い煙を吐き出した。夜の闇は、どこまでも彼女に優しかった。

路地裏の細い通りに行き着くと、ルミカは携帯電話を取り出した。売人にメールをすると、ほどなくして売人から返信が来る。あと三分で着くとメールには書かれていて、ルミカは期待に胸を大きく膨らませた。

(あと三分で全てを忘れられる。あと三分で、全てを手に入れることが出来る)

いわば現実逃避をしたいあまり、ルミカはクスリを追い求めていた。快楽より何よりも、全ての事柄から目を背けたかったのだ。三分間。それはルミカにとって長いものだった。幼児が母親を待つように、ルミカは首を長くして路地裏に立ち尽くした。

そばで足跡が聞こえたとき、ルミカは顔を上げた。そこに売人の卑屈な笑顔を認めたとき、彼女の時間は始まった。地獄へのカウントダウンが、幕をあけたのだ。

終わり

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