おはなし

□精神病院
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「血圧を図らせてください。野々村さん」

看護師の言うとおり、野々村は手を差し出した。すかさず看護師は野々村の手を握り、血圧を図る。ここは精神病院で、野々村は三日前から入院していた。なぜ入院したのかというと、野々村は薬物に問題があったからだ。一度はまると中々抜け出せない、地獄のような日々。野々村はそんな体験を嫌という程繰り返し、ようやく治療に望んだ。しかし回復はなかなか難しいようで、何でも普通の生活に戻るのには何年も要するらしい。認知もゆがんでいるので、それも治療しなくてはならない。野々村は入院時に医師からそう告げられ、やや不安を感じていた。いまも血圧を図りながら、医師の言葉を思い出していた。

「焦らず、ゆっくり、回復を目指しましょうね」

焦らず、ゆっくり。野々村は医師の言葉を反芻しながら今後のことを考えた。すると頭が痛くなり、きーんと耳鳴りがした。いまは何も考えたくない。そう身体が訴えているようだ。血圧を図り終わった看護師を尻目に、野々村は寝返りを打った。

さみしい。野々村はさみしくなった仕方なかった。いまにも涙がこぼれそうなのをぐっと堪えた。先のことを考えると、頭がどうにかなりそうだった。今を生きられない。野々村は囚われた子鹿のように身体を震わせた。外を見ると肌かの木々が並んでいた。まるで野々村のように、細い枝が頼りなかった。

20140828

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