L.S

□背中合わせの愛言葉
5ページ/5ページ



「その時の会社の社長が欲しがったのが…僕だった」



───どうして、泣いてるの



「……っ…どうしてお前が…」


「その会社の社長さん、勿論若いんだけど結婚しててさ…でも、体が丈夫じゃなかったせいか子どもに恵まれなくて。僕らが産まれた頃奥さんとは離婚しちゃってたんだって。だから早々に会社の跡継ぎを求めた結果、僕を欲しがった…ま、次男だしね僕」



どうしてそんなに明るく話すんだ

僕が、憎くないのかよ
双子の弟ってだけで金の代わりに…売られたも同然じゃんか


「光、『売られたも同然なのに』って思ってるデショ」


「…ちがっ」

「気にしないで??僕は全然誰も憎んでなんか無いし。勿論光だって…会えて良かったって思うよ??」


ずっと感じてた

この物足りなささ


ずっと探してた
お前、を


「かお、る……馨」


そうだ、だってこの名前すら
なんの違和感もなく、僕の口から溢れ出る
求めた響き
知っていた、響き


「光」

「馨」


「「会えて良かった…」」


僕のキモチは矛盾だらけ。


最初はあんなに嫌だったのに
真実がわかった瞬間

僕は馨を
馨を、すごく懐かしく感じた



連れていかないで
離さないで
お願いだから

目を閉じる度安心したのに
目を閉じる度不安になった

泣いているような気がした
自分じゃない自分が


「…じゃあ馨は、その社長さんの手で育ったワケだネ」

「うん、───っでもお父さ…社長さんは僕が13歳になった時に亡くなっちゃって……僕はまだデザイン画は描けても経営術は継げないから、……社長が亡くなってからは社長の…年の離れた弟さん、が僕の代理で………」

「…??そっか、でも良かった。その人も優しいのか?」


「────うん、勿論」






それから僕らは
殿達が来るまでの数分間でいろんな事を喋った

置き去りにしていったハルヒや殿とか、先輩たちも一瞬びっくりしてたけど
僕が軽く事情を話したら単純に理解してくれた

殿なんかもうノリノリで
楽しそうに笑う馨を見ながら
二人でいなかった数十年間を埋めようなって言ったら


うん、とまた笑いかけてきた





でも僕は気付かなかったんだ



馨の笑顔の、その理由に。







.
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ