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□貴方だから言葉だけでいい
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「イルミ、針で顔変形させる技教えて」
「いいけど、なんで」
「可愛くなりたい」
そう言い放った私を、きょとんとした顔で見つめ直すイルミ。もちろんこの表情の変化は、恋人同士だからこそわかるのであろう。
「鼻は低いし、目を重たい一重。…私だって綺麗になりたい。せめて、イルミの隣を恥ずかしくなく歩ける女性になりたいの」
ここだけ聞くと、あっさりと本音をぶちまけたように聞こえるだろう。しかし、思いはじめて口にするまでに、やはりかなりの時間を費やした。
なのにイルミは予想に反した態度、言葉で本当にあっさりと答えを返した。
「そういう事情なら教えないよ」
「…!なんで!」
「そんなこと言ってる余裕あるなら仕事こなせば?」
同情する訳でも冷たい目で見ることもなく、平然と言った。
自分には関係ない、と言っているようだった。
「ルイの殺しの腕は俺も尊敬するくらいだし」
「別にそんなもので尊敬なんかされたくない!!!」
私はイルミに怒鳴っていた。彼に対して怒っているんじゃない。
自分のどうしようもないコンプレックスに、どうしようもない感情を声に出していた。
「私はイルミの恋人だ!!!だからこそ、可愛くなりたいんだ」
「俺はルイが不細工だろうが美人だろうがどうでもいいよ」
「イルミが良くても私が許せない。周りの目を気にしないイルミにはわからないよ」
だんだん声が小さくなってしまう。自分のコンプレックスを彼氏に八つ当たりしてるなんて、今更ながらに恥ずかしくなってきた。
「あのね、」
「ああ、もういいよ。手っ取り早く整形しに行けば良かった」
イルミの言葉を遮るように小さく呟く。だって、私はキレイになりたいから。イルミに似合う女性になりたいから。
「整形?そんなの俺、許さないよ。」
「なんでそんなこと言うの…!?」
「そんなこと言ってる余裕あるなら仕事こなしなって」
イルミの目はとても冷たくなっていた。いい加減にしてくれ、と心の声が聞こえて来る。
それを感じ取る私はもう、泣く寸前だ。
「いい加減にしないと、怒るよ?」
変わらない表情に単調な声。しかし、苛立ちは伝わる。
「仕事の上で針を使うなら、俺も教えるよ。でも、そんな理由じゃ教えない」
イルミの単調で冷たい声に我慢出来なくなり、ついに涙が溢れ出てきてしまった。
「イルミにとっては“そんな”でも、私にとっては“そんな”じゃない」
涙声で弱々しく言う私を一瞥して、彼は大きくため息をついた。
「折角俺と一緒にいるのに、どうしてそんなことしなきゃいけないの。整形しにいく暇があるなら俺に会いにきてよ」
冷たい瞳はいつものどうでもいいものを見る瞳に変わっていた。
それでも、私にとってはこの言葉だけで十分過ぎる。
「自分がどれだけつまらないことを言ってたか、わかった?」
こぼれ落ちた涙は最初の意味とは既に違っていた。
未だに苛立っているイルミに向かって、ごめんねと言うと、仕方ないな、と言うような顔をした。
貴方だから言葉だけでいい
(でもやっぱギュとかしてほしい)(え?)(い、いや、なんでもない…)(これでいいの?)(…うん、)
end