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□無音の気持ち
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「ルイはさ、本当に俺のこと好きなの?…もう、別れよう」


約15分前、今ではもう元彼と呼べる人に言われた。
そう、私はフラれたのである。


「ごめんね、でもありがとう」


笑って立ち去った。きっと上手く笑えていたと思う。
視界の端に、無人のブランコが風で揺られているのを捉え、今日も寒いなと思う余裕さえあった。



フラれたからと言っても、別段悲しくはなかった。
別れを告げられた理由なんて知らないが、ききたい訳でもないし興味もない。フラれたのなら仕方がない。また新しい恋を見つけよう。そう思いながらバスを待っていた。

バスは予定時刻の5分も早く到着した。こんな寒い中、早く来てくれてありがたかく思った。

車体には大きく絵が描いてある。中は綺麗で、比較的新しいバスだ。


整理券を取って、前の方の席へ座った。
乗客は、後方の席に女子高生が二人、それだけだ。どうりで早く着く訳だ。


混まないで良かった。それでも後ろの話し声は、妙に気分を落ち着かせてくれた。


バスはいつものようにビュオオ、ブオオと音を立てながら走っていく。

その音がぷつりと消えた。
赤信号で止まっているのだ。

アイドリングストップによる無音は、より一層女子高生達の話し声を際立たせた。
うるさいとは感じない。今の私には心地好い雑音だ。


しかし、彼女らが降りるとピタリと静かになり、さみしく感じた。



再び赤信号で止まっていると、右側から来たバスが左折してきた。

そのバスは走っているのに無音だった。ビュオオと言いながら走るバスも、無音のバスの中では無音のままだった。

バスが通り過ぎていく。何も言わずに。いや、言っているのに聞こえないのだ、私には。
なんだか私だけが、取り残されたような気分になった。



待って…!!!!置いていかないで…!!!!



いつの間にか叫んでいた。


「ここで降ろしてください!お願いします…!!!!」


赤から青に変わって動き出したバスは、すぐに止まった。


お客さん、大丈夫ですか?と運転手に声をかけてもらったが、私の耳には届いていなかった。



一目散にあの公園まで走る。
冷たい風が顔に突き刺さる。やっぱり今日は寒いなと感じた。
でも、当初のような余裕はなかった。

彼は、もう公園にはいないかもしれない。
それでも走った。



駄目だ、諦めちゃ駄目だ。
もういいやって思ってた。
フラれても次がある。嫌われたんなら、かっこよく過ぎ去りたいなんて思ってた。でもそれじゃ駄目だ。
私はシャルが好きだ。どうしようもなく好きだ。
かっこ悪くたって、嫌われたって、私はシャルが好きなんだ。
だから、置いていかないで…!


走って走って、気付いたら妙な自信が沸き起こっていた。
私はシャルに嫌われてなんかない!
そう、そんな自信がどこからか溢れ出ていた。



「シャル!!!!!」



彼はあの場にいた。まるで、私がここにこうやって来ることを予測していたかのように。


「ごめん、私、シャルが好きだ。どうしようもなく好きなんだ。」


息を切らしながらも、必死に大きな声で言った。
自分でも馬鹿らしく思えた。フラれたのに何を言ってるんだろう。相手には迷惑だろうと。
それでも、私はシャルが好きだし、シャルも私のことが好きだと思えた。
その証拠にシャルは笑っていた。


「気付くの遅いよ、ばか」


そう言って冷え切った体をぎゅっと抱きしめてくれた。


end

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