* 拍手御礼 *
- ゾンビ -
「おい」
一緒にお弁当を食べていたゾンビくんが、眉間に深い皺を刻み込んで言った。
鋭い眼光は、今にもビーム的な何かを放ちそうな雰囲気を醸し出す。
じっとりと見据える瞳が私を非難している――ように見えて身が縮こまった。
「……何か?」
「何かじゃねぇよ」
恐る恐る尋ねるも、ぴしゃりと切り捨てられる。肩をびくつかせていると、盛大に溜め息をつきながらこちらを指差した。
「お前、そのクセやめろ」
「く、癖?どんな……」
「それだよ、それ!」
どんな癖だ――と思った瞬間、それだと指摘を受けた癖。言われるまで気づかなかった。
「口元の汚れを舌で絡め取るなっての」
「あ……」
なるほど、と合点した。
食事中、何度かそんなことをしていたような気がする。
子供の頃からの抜けない癖。
癖を持つ本人からすれば無意識のうちの普通の行為であるが、他人からすれば普通でない行為――ともすれば敬遠、嘲笑、拒絶の対象になりかねない。
恋人から指摘されて焦る気持ちに次いで、高校生らしからぬ子供っぽい癖に羞恥を覚え反省する。
「ごめんね、気分悪くさせちゃったよね。無意識でやってて……」
「だからタチが悪ィんだろ」
語尾を荒げられて、嫌われるのではないかという想いに駆られて怯む。
「そ、そうだよね。もう高校生だもん、気をつけなきゃ――」
「あ、いや……そうじゃねぇ」
ふと、先ほどまでの荒々しさが嘘のように柔らかな口調で言葉を遮った。頭をがしがしと掻き毟りながら、たっぷりと間を置いて、声を絞り出す。
「俺が、たまらなくなんだろ」
――はっとした。
ほんの小さな、蚊の鳴くような声でぽつりと紡いだ言葉は、私に染み渡った。
マナーがどうとか癖がどうとか、そんなことは関係なかった。ゾンビくんが怒っていた理由――それは目の前で繰り返される私の癖に翻弄される、自分自身の弱さ。
「ったく。俺が一緒に飯を食うたびに、どんな気持ちになってるのか分かってんのかよ。今だってこんなに我慢してるってのに……」
そっぽを向いて苛立たしげに下唇を噛むゾンビくんの頬は、紅潮している。
飯を食うたび、ということはいつもということ。そんなゾンビくんが無性に愛おしくなって――頬にそっと唇で触れてみた。
「お、おま……!何して……!」
目を白黒させながら頬を片手で押さえ、今度は耳まで赤く染めた。何度か目を瞬かせたあと、ニタリと不敵な笑みを浮かべて言った。
「お前、これから覚悟しとけよ。次にその癖を出したら同じ事をしてやるから」
言って、今度はゾンビくんから唇を重ねた。
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彼女が小悪魔ちゃんなら、この癖を最大活用するんだろうな。