短編の章

□甘酒がおいしい季節になりました
3ページ/4ページ

―――ガコンと音を立て、自動販売機から温かい甘酒が出てきた。裏は甘酒を取り出し、風間に手渡す。

「…どうも」風間は小さく返事をして、甘酒の缶の蓋を開けて、中身を少し口に含んだ。
―――酒粕の香りと優しい甘味が、風間の体を温めていく。

「…どうして、あんなところに一人でいたんだ」と、裏。風間は「あぁ」と顔をあげ、

「家に帰るのにバス停まで歩いていたんです。本当は友達と帰るつもりだったんだけど、みんな急用が出来たとか何とか…」と答えた。

「つまり、その友人とやらに置き去りにされたというわけか」裏が、鋭く言った。
「い、いや、置き去りと言うか…」と、風間。

裏は懐からナイフを取り出し、
「どこのどいつだ、その不届き物は!八つ裂きにしてやる…!」と、憎悪たっぷりに吐き捨てた。風間は慌てて「わー、裏様!!どうどうっ!!」と裏を制止した。

裏はふうと息を吐いた。風間もつられて息を吐く。

―――その瞬間。

ふわっと優しい何かが、風間の肩を包んだ。―――それは、裏のジャケットだった。

裏は優しい声でささやく。
「とにかく、もうあんなみすぼらしい格好でウロチョロするな。お前が凍えて死んでしまっては困る」
「…はい」風間は、ホロ酔い状態で小さく返事をした。

「…それは、後で返せよ」と裏。風間は慌てて「わ、わかってます!」と声を張った。すると、裏はそれを遮るように

「俺の、家にな」

―――と、甘い声で言った。風間は、恋する乙女のような表情で「…はい」と呟いた。

きっと、風間はこの後、裏の家で暖まっている事だろう。
――――裏の、乱暴な、熱い炎で。

       *終り*
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ