短編の章
□甘酒がおいしい季節になりました
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「何をしている?」
風間の背後から、低い声が聞こえた。風間はハッとして、後ろを振り向く。――そこには、風間の知る人物が立っていた。
「"裏様"…!」
「裏様」と呼ばれた男は、北風に長い髪をなびかせ立っている。そして、死んだような暗い瞳で、風間を見やる。
「何をしている…と聞いているんだ」裏は、冷たく言った。風間は慌てて「い、いや、あの、その、」と声を漏らす。
「学校から…家に帰ろうと思って…」と、風間は搾るように言った。その言葉を聞いた裏は、フッと目を伏せる。
「そんな、みすぼらしい格好でか?」裏は笑った。―――よく見ると、風間は、マフラーと手袋こそ着用しているものの、肝心のコート類は一切羽織っていない。これじゃ、みすぼらしいというより寒すぎる。
「こ、コートはまだ取りに行ってなくて…。その、クリーニングから」と、風間。
裏は、そんな風間を見て、優しく笑った。
「ついてこい」そう言って。