おはなし

□ぬくもり。
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<ぬくもり。>

「譲くん…困っちゃったね〜。朔も何を考えてるんだか…。

ほんとにごめんね、きっとすぐに出られるから…」



俺と景時さんは今、普段使われていない部屋にいる。といっても

自発的にいる訳ではなく…景時さんの妹、朔に閉じ込められている。

この部屋は普段、布団部屋として使われているらしく、部屋の隅には

積み重ねられた布団が並んでいて…。



「もし…さ、このまま朝までここにいる事になっても、布団にだけは

困らないね〜」



なんて、景時さんは笑ってる。

まったくこの人は…俺に気を使ってくれてるのはわかるけど、のんき

というか……。朔が、ここに俺達二人を閉じ込めた意味が…

わかってないんだろうか…?



「景時さん、俺達…恋人ですよね?」

「うん、もちろんだよ?」

「景時さんは、俺の事、ちゃんと好きなんですよね?」

「うん、うん!もちろん大好きだよ。」



ふぅ。と一つ溜息を吐いて…

部屋の隅、布団を背もたれにするように腰を掛けた。景時さんを

見上げれば、ニコニコと邪気のない笑顔を向けてきて。

悪気がないのはわかってるけど、どうしてもイライラしてしまう。



「じゃあ…なんで俺に手を出さないんですか?あの、告白の日以来…

キスすらしてこない…。俺にはそんな価値もないですか?」

「譲くん……そんなことあるわけないよ!ただね、俺は君が大人に

なるのを待ちたいんだ。譲くんはまだ若いから…後で後悔なんて

して欲しくないんだよ。」



俺は絶対に後悔なんてしない…なんでいつもあなたは…。

少し声を荒げれば、慌てて俺の前に腰を下ろし、顔を覗き込んできた。

困ったような笑顔を浮かべて、必死に弁解する景時さんを見ると

イライラが消えてしまう。



「あなたは本当に優しい人で、俺の事を一番に考えてくれているのは

わかっています。でも…俺はあなたとそういう関係になりたい……。

今日のことは…俺が朔に頼んだんです、あなたが俺を欲しがってくれ

ないから。それでもあなたは何もしてこないんですね…」



そう。これは俺が仕組んだ事……。

あの告白の日以来、景時さんが部屋に戻ってこなくなってしまったから。

昼間に会えば話もするし、避けられている様子でもなかったけど…

こんな風に夜だけ避けられるのなら、理由は明確だから。

朔に頼んで、俺達をここに閉じ込めて貰ったんだ。

本当は告げるつもりはなかった。二人きりになればどうにかなる気がして

いたから。でも…景時さんの意思は思っていたよりも固くて……

ここまで協力してもらった朔に、申し訳なくてバラしてしまう。



「うん、気付いてたよ。…ごめんね。それでも気付かないふりをして

やり過ごせばいいと思っちゃったんだ。君のためだなんて言いながら

本当は俺が怖いだけなのかもしれないね…」



そう言った景時さんは、どこか寂しそうで……急に怖くなる。

怖いってどういうことだろう?俺の存在は景時さんにとって負担に

なっているんだろうか…?

この茶番の真相を知られていたことよりも、知ってなお逃げ続ける

景時さんの行動に恐怖を感じてしまう。

気付けば…景時さんの衣の袖を掴んで、縋るように聞いていた。



「怖い?…俺の存在は重いですか?それなら軽くなるから……

責任取れなんて言わないから…」

「譲くん、それは違うよ?君との関係を責任なんて言葉で続けたくない。

君を知ってしまって、もっと君に溺れたら…君を壊してしまうかも

知れない、それが怖いんだ…」



景時さんは、袖を掴んだ俺の手を外して…俺を引き寄せると、抱きしめてくれた。

臆病な俺でごめんね。

不安にさせてごめんね。

何度も何度も謝りながら、抱きしめる腕に力が込められる。

繰り返された謝罪はやがて、願いへと変わっていった。

愛したいよ。

壊したくない。

ええ、俺もあなたを愛したい。

伝えるために、腕を振り解いて向き合う。振りほどかれたことに、景時さんは

怯えていたけど…そんなこと今は構うもんか…。



「あなたらしいですね、でもそれで良いじゃないですか。俺はそんな

事では壊れません。あなたに愛されて、壊れるわけがないでしょう?

ね?俺が好きなら、俺を欲しいって言ってください。」

「譲くん…ありがとう。君が欲しいよ、君が好きだから俺のものにしたい。

大切にするから、優しくするから…君を抱かせて?」



もう一度抱きしめられて、口付けられた。今までにない深い口付け……

激しくて甘い…頭の芯まで痺れるような……

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