ていきょう

□景譲10題。
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<届いた文>

雲ひとつない快晴。

陽の光に洗われて、空気は痛いくらいに澄んでいる。

朝特有の湿気を帯びた風が、時折頬を掠めて。

ただでさえ寒い冬の朝を、より寒いものに感じさせる。



ぶるっと一つ身震いをして、景時は洗濯物を手に取った。

真っ白に洗い上げられた洗濯物を勢いよく広げ

丁寧に竿にかけていく。



結局あれから、景時が眠りにつく事はなかった。

周りが起き出し活動を始めるまで、じっと布団の中で待ち

朝食の支度を終えた譲に起こされるまで、寝たふりをしていた。

そして顔を洗い、朝食を終えて、そのまま洗濯を始める。



洗えば綺麗に汚れが落ちる洗濯物を見ているうちに

自分の罪も消えていくようで。

洗い終わった洗濯物を絞る頃には、景時の機嫌もすっかり上昇し

干している現在は、鼻歌が出るくらいになっている。



「ふふふん〜ふんふん〜♪」

「…景時さん、ご機嫌ですね」



朝食の片付けを終え庭に出てきた譲が、そんな景時を見て

クスクスと笑いながら声を掛けた。

手にはお盆。その上には湯気を立てたお茶が2つ仲良く並んでいる。



「お茶を淹れたんです。それが終ったら一息つきましょう?」

「うん、ありがとう。ちょっと待っててね、もうすぐ終るからさ」



譲は目の端で洗濯物の残量を確認する。

たくさん残っているならば手伝う事もするが、残りは少し。

洗濯好きの景時の楽しみを奪うのも気が引けるのだろう。

譲はわざと手伝わずに、景時をお茶に誘った。



縁台にお盆を置いて、その脇に腰を掛けて景時を待つ。

時折吹く風はとても冷たく、譲の体を冷やしていくが……

楽しそうに洗濯物を干す景時を見る、譲の心はほんわりと温かい。



「譲くん、お待たせ〜」

「いいえ。ご苦労様です」



景時が譲の脇に腰を下ろすと、譲がお茶を手渡した。

先程よりも少し冷めたお茶は飲みやすく

冷えた体を温めてくれる。



「あーあ!いい天気だなぁ!」

「ふふ、そうですね」

「こんな日はずっとこうしてのんびりしていられたら良いのにね」

「ええ。実際にはそうはいかないですけどね」



大きく手足を伸ばし、ゆったりと伸びをしながら景時が喋り。

その脇でにこにこと微笑みながら譲が相槌をうって。

庭には鳥達が舞い降りて、小さな虫を啄ばんでは飛び立ち。

陽の光は2人を祝福するかのように、優しく照らしている。



「兄上…ここにいらしたんですね」



そんな静かな朝の一時を壊すように

余程急いでいるのか、それともずいぶんと探したのか

朔が息を切らしてやって来た。



「朔…どうかしたのかい?」

「ええ…兄上これを…。頼朝様の遣いだという方からです」



朔が差し出したのは、何の変哲もない書状。

景時はそれを少しの間眺めて。



昨夜の任務を思い出す。

またなのだろうか……。

こんな思いをどれほど繰り返せばいいのか…。

一度犯した罪は重ね続けるしかないのか…。



「兄上……?」

「景時さん……?」

「あっ…あははは…頼朝様からってなんだろうねぇ〜

オレなんか怒られるような事しちゃったのかな〜?」



怪訝そうに景時を覗き込む譲と朔、2人に声を掛けられて我に返り。

誤魔化すように茶化しながら書状を受け取る。

空気が凍りつく。

そんな言葉が一番似合うのだろう。

書状を広げた景時の顔が強張った。



「ご、ごめんね譲くん…。オレちょっと用事ができちゃった」

「いいえ…別に構いませんけど…大丈夫ですか?

景時さん…顔色が悪いですよ?」

「あはは…大丈夫だよ〜!ほんとにごめんね!」



書状を懐にしまい、逃げるように去っていく景時の後姿を

譲は不安げに見送り…。

明け方近くに見た夢を思い出し、小さく頭を振った。

そんなことはあるはずがない。

全ては自分の考えすぎなのだと……。

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