おくりもの

□我侭。
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<我侭>




「遅い!」



静かに玄関のドアを開けたはずなのに…。

目の前に仁王立ちしている譲に、帰ってくるなり怒鳴られた。

ま、玄関で待ち伏せてんだ、静かにドアを開けたってそりゃばれるよな。



「今日は早く帰るって言ってただろ?」

「あー…予定は未定ってな…」

「だったら連絡ぐらいすればいいだろ」

「んな怒んなって」



怒るっていうよりは拗ねてんのか…。

苦笑いを向ければ、何も言わずに背中を向けてリビングに消えてった。

譲の気持ちはわかるんだ。

俺だって譲と一緒に過ごしたいって気持ちはある。

だけどなぁ…なんか、気まずいだろ。



四六時中顔を突き合わせて、いちゃいちゃすんのは柄じゃねぇし。

ま、それについては譲も望んじゃいないだろうけどな。

それにしたって、何する訳でもなく一緒に過ごすっつーのが駄目なんだ。

駄目っつーか…困る。

譲が可愛くて、愛しくて、一緒に過ごす時間が長ければ長いほど

自分の心を持て余しちまう。



「譲、んなに拗ねんなよ…」

「別に…」

「お前なぁ…そんで拗ねてねーって…」

「煩いな、あっちいけよ」



拗ねてないって態度じゃない、ソファに腰掛けてクッションを抱え

肩越しに覗き込めば、俺と真逆の方向に顔をそらす。

反対から攻めれば、また真逆に顔をそらして…。

あーあ…。



「…譲…くん?」

「君付けで呼ぶなよ…気持ち悪い」

「気持ち悪いってお前…」



ま、こんなんでもずっとシカトされてるよりはずっとマシだ。

背凭れ側からソファを飛び越えて、譲の前にしゃがみ込む。

相変わらずそっぽは向いてるけど、少しだけ治まってきたってカンジだな。



「俺が悪かった!な、頼むから機嫌直してくれ」

「俺の機嫌なんて取ってないで、いつも通りに好き勝手すればいいだろ」

「やー…だから悪かったって。な?」



顔の前で両手をパンと合わせ、拝むようにして詫びを入れる。

ぎゅっと閉じた目を片方だけ開けて、譲の顔を見れば

ちらちらと俺を気にして、視線を向けてくる譲と目が合った。

その途端、慌てて目をそらそうとするのが可愛い。

可愛いけど…アレだ、自覚がないってのが困るんだよ。



「どうせ本当は悪いなんて思ってないんだろ?」

「んなこたねーよ」

「じゃ、なんでいつもいつも…」



ちゃんと悪いって思ってる。

譲が待ってくれてるのを知ってて、ずっと家に帰らなかったり…。

んとは…付き合いなんてどうでもいいんだ。

全ての事をすっ飛ばして、譲とずっと一緒に居れたらそれでいい。

だけどな…やっぱ困んだよな…。



持て余した心を、どこに持っていっていいのかがわからない。

たった11ヶ月…1年にも満たない年の差だって

俺の方が先に生まれて年上だって事には違いがなくて。

譲の前でだけはかっこつけていたいって思うだろ。

譲が好きで余裕がない俺なんて、かっこ悪くて絶対に見せたくない。



「本当に悪いと思ってるんなら、なんでいつも1人で勝手に行動するんだよ」

「ごめん…な」



流石に、これにはちょっと堪えた…な。

呆れた顔して同じ台詞を吐く譲とは思えない、いつもと違う寂しそうな顔。

仕方ないなって、最終的にはいつも許されてるから甘えてた。

ずっと我慢してた譲と、かっこばっか気にして逃げ回ってた俺。

我侭をずっと許容してくれてたのは譲で…。

これじゃ、どっちが兄貴なんだかわかりゃしねぇ。



「あー…色々本末転倒ってこったな」

「は?何訳わかんない事言ってんだよ?聞く気がないなら邪魔だから離れてくれ」

「駄目だ、離さねーよ」



最初からこうしてればよかっただけの事だったんだ。

ぎゅって抱きしめて、伝わる体温と鼓動があれば言葉なんて要らない。

間が持たないとか、んなのはただのいい訳だな。



「離せって」

「や、離さねーよ。少なくともお前が許してくれるまで離さねえ」

「兄さん…?」



腕の中の譲の力が弱くなってく。



「マジで悪かったな…」

「ん…もういいよ」

「そか…ん、お前がいいってんならまぁ…な」



緩んだ力が再び込められて、離れようとした俺の背中が引き寄せられた。



「譲…どうしたんだ?」

「我侭…たまには俺のも聞いてくれてもいいだろ?」

「ああ、たまにはじゃなくて、これからはずっとな」


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