おくりもの

□勝者は…。
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<勝者は…。>




「譲、私は譲と一緒に寝たい」



夜の団欒が終わり、一部屋に集まっていた者達がそれぞれの部屋に戻ろうという頃。

室内の空気が緊張に支配され、お互いがお互いの監視に入る。

その空気を察して、逃げ出そうと立ち上がった譲の腰の辺りに、

緊張の空気を読めない白龍が抱きついた。

白龍に向けて一斉に注がれる視線。

それを合図に、今夜も戦いの火蓋は切って落とされた。



「白龍、譲君と一緒に寝るのは僕ですよ」



一番最初に口を開くのは、胡散臭い笑みを浮かべた弁慶が常で。

譲の腰にしがみついている白龍の肩を引き、譲から剥がしに掛かった。

白龍は子供だから小さいから等と手加減はしない。

これが本物の子供ならば別だが、龍神というからには白龍は神様。

無邪気に見えるのは俗世に汚れていないからで、手加減を施してやる必要はない。

むしろ人間である自分の望みを叶えろと言わんばかりである。



「ったく…アンタさ、大人気ないんじゃないの?な、ゆずる」

「あ…まぁ…」



弁慶が出れば、黙っていられないのがヒノエ。

仕方がないと言わんばかりに立ち上がり、白龍と弁慶の間に割って入った。

結果を焦らず、城壁の崩しにかかるのが手管である。

困惑する譲と白龍を助けるヒーローのごとく口を挟み、得点を稼ぐ。

譲がちゃんと同意できないのは、もちろんそれを知っているからで

白龍を連れてこのまま逃げ出したい気分に変わりはない。



「おや、ヒノエはずいぶん物分りが良くなったんですね」

「昔っからアンタよりは悪くないつもりだけどね」

「そうですか、なら物分りのいい子供は早く家に帰って、母親の乳でも吸っていなさい」

「ふん。坊主は坊主らしく、さっさと俗世から隠居して渋茶でも啜ってなよ」

「ちょっと2人とも、喧嘩は良くないよ〜!」

「アンタは黙ってなよ」

「景時は黙っていてください」



争いが起こると仲裁に入るのが景時の役目。

慌てて立ち上がり、弁慶とヒノエの間に割って入るが一喝される。

おろおろとしながらも、2人の間からは逃げ出さずにどうにか止めようと必死だ。



「譲はどうしたいんだ?誰と決めていないなら俺と一緒に寝ないか?」

「誰と決めてないと言うよりは、1人で…うわっ!何すんだよ!!」



譲の意見を聞くようで、ちゃんと自分のアピールも忘れないのが九郎。

口論を始めた弁慶とヒノエ、それを止めようと頑張っている景時の3人から

少し離れた所で、それを見ている譲と白龍に近付いて声をかけた。

譲にしてみればどれも同じ、早々に逃げ出して一人で眠りたいのが本音で

聞き入れられないのはわかっているが、問われればそう答えてしまいたい。

もちろん誰に遠慮をしている場合でもなく、1人で寝ると答えようとすれば

将臣に担ぎ上げられて、体が宙に浮いた。



「譲は俺と寝るって決めてるんだよな」

「ふざけんなっ!そんな事いつ決めたんだよ!?」

「将臣!譲が困っているだろう、早く降ろしてやれ」

「将臣、譲が嫌がっているよ。だから譲を離して」



肩に担ぎ上げられて、バタバタと足をばたつかせて抵抗する譲。

その周りを、お気に入りを取り上げられた子供のように

おろおろ回り始める白龍と九郎。

将臣にとって譲を誰にも取られたくないというよりは、これが面白い。

まだ譲は自分の手の中にある、そんな優越感もあるのかもしれない

自分に担ぎ上げられて暴れる譲の重さを楽しんでいる。



「白龍、白龍は私と一緒に寝よう?」



望美はいつでも将臣の味方である。

厳密に言えば譲の味方で、将臣の味方というのは語弊があるかもしれない。

可愛い弟のように思っている譲の相手には是非将臣を。

これが望美の主張だけに、この場合の味方が将臣になるだけ。

望美は白龍の前にしゃがんで、白龍の説得を始めた。

「うん!私は神子と譲と3人で寝たい」

「白龍っ!?」

「ええと…譲君は将臣君と兄弟水入らずで寝たいんだよ。

だから白龍は私と一緒に寝よう?」



悪びれる事無く放った白龍の爆弾発言に、周りの空気が凍りつく。

いくら望美が男勝りだとは言え、女だという事に変わりはなくそれは不可能。

当の望美がそれを望んだところで、譲は光速でその場から逃げ出すだろう。

望美もそれは望んでいないのが、譲にとっては幸か不幸かは知らないが…。

とにかく白龍にそう説明したところで理解されないだろう。

望美は当り障りのない説明を白龍にする。

まぁ、譲にとって相当の当り障りがあるのは、この際置いておこう。



「だってさ。んじゃ決まりだな…っておいっ!?」



将臣が機嫌よく譲を連れて部屋を出ようとすると、譲を抱えていた肩が急に軽くなる。

驚いて後を見ると、丁度リズヴァーンが譲を降ろしてやっているところだった。



「譲の意思を無視するのはよくない」

「そうだな、将臣殿には申し訳ないが私もそう思う」

「わーったわーった、俺が悪かったよ」

「リズ先生…敦盛も有難う」

「構わない、私はお前の意思に従おう」

「ああ、私も譲が望むなら共に寝ても構わない」



リズヴァーンの隣には、申し訳なさそうに敦盛が立っている。

2人とも譲の意思を尊重すると言う割りに、自分の主張も忘れない。

静かな攻防だが、譲の目にも室内中に飛び交う火花が見えるようで…。

どうしたって誰かと寝る羽目になるならば、さっさと決めてくれと

腹をくくって深い溜息を吐いた。



スパンッ!!



この部屋に引き戸があったなら、確実にこのような小気味のいい音が鳴っただろう。

団欒の席から外れていた朔が、派手に御簾をくぐって室内に飛び込んできた。

シンと静まり返る室内、誰かの息を飲む音だけが聞こえる。

こそこそと逃げ出そうとしたのは譲だったのか、景時だったのか…。



「譲殿、兄上の部屋に布団を敷いておきましたから」



にっこり微笑む朔に逆らえるものは誰もいない。

気弱な兄が得をしているのか、兄想いの妹が強いのかは知らないが

今日も争奪戦は景時の勝利。

おかげで譲は朝までゆっくり寝れたとか寝れないとか…。

それはまた別のお話。


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