おくりもの

□どうか届きますように。
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<どうか届きますように。>




「譲くん、麦茶持って来たよ〜」

「景時さん、すみません…言ってくれれば俺がやりましたのに」

「気にしないでいいんだよ、だってこれコップに注ぐだけじゃない」

「そうですね。じゃ、ありがとうございます」



お盆がどこにあるかわからなくて、麦茶の入ったコップをそのまま掴んで持ってきた。

譲くんが腰掛けるソファの前のテーブルに、冷えて汗をかき始めたコップを置いて

自分も譲くんの隣に並ぶように腰をかけた。

本当はもっとくっついて座りたいんだけどね、あんまりくっついて嫌がれたら悲しいから

これくらいの距離は我慢しないと。



正面に置かれたテレビでは、今日の出来事を淡々と語る男の人。

譲くんの手には小さな本が持たれていて、譲くんの意識はそれに集中している。

長くて綺麗な指…でも、節張っていて力強い。

弓の練習を欠かさない、譲くんの意志の強さを語っている指。

そんな譲くんの指に触れられて、意識を独り占めしてる本が少し羨ましい…なんてね。



「景時さん…俺…気になるんですけど…」

「えっ!?…あ、あっ!ご、ごめんね!!」

「いいんですけど…少し気になってしまって」



読書の邪魔をしてしまったんだと、慌てて傍を離れようとしたら

譲くんの腰が少し浮いて、俺との隙間を埋めるよう席をつめてきた。



「ゆ、譲くん?!」



驚いたオレに、にっこりを微笑みかけてくれる譲くんはすごい可愛いけど

ぴったりとくっついた腰同士が、なんとなくくすぐったい。

遠慮する事なかったなぁ…なんて。

ちょっとだけ反省。

だってさ、オレにはまだ信じられないんだよね。

こんなに可愛い譲くんが、オレを選んでくれたなんて。

こんな風に譲くんを好きだと思うオレと、同じ気持ちでオレを見てくれるなんてさ。



奇跡…だよね。

譲くんと出会えたこと自体が奇跡なのに、こうして想いが通じて隣に並べる。

こんな奇跡は二度と起こらないだろうし、他のどんな奇跡なんかよりも幸せで

絶対に手放したりしたくない。

ページをめくるたびに揺れる、譲くんの若草色の淡い瞳も。

時折動く、薄くて形のいい唇も。

オレに向けられてない今だってこんなに幸せなんだから

オレにだけ向けられる瞬間があるってだけで、やっぱり奇跡なんだよね。



「譲くん、ありがとう」

「どうしたんですか、急に」

「うん、オレって幸せだな〜って思ってね」

「ふふ、俺もですよ」



ほらね、目が合うだけでこんなに幸せになれる。

譲くんの唇が、オレの名前を形作るだけで空だって飛べそうだよ。

こんなにオレを幸せにしてくれる譲くんに、どうしたって伝えきれないけど。

精一杯の感謝の気持ち…どうか半分でも伝わりますように。



「譲くん、大好きだよ」

「俺も、景時さんが大好きです」

「うん、うん!オレだって譲くんのこと大好きなんだ」

「くす…じゃあ、態度でも表してくれませんか?」



俺の肩に頭を乗せるようにして、譲くんが体を預けてくれる。

預けられた体重が、服越しに伝わる体温が、やっぱり愛しくてたまらない。

譲くんの髪に鼻先を埋めて、額に軽く口付けを落とせば

洗い立てのシャンプーの香りに混ざって、ほんの少しの譲くんの体臭が鼻をくすぐった。

態度で表すって意味が、これであってるのか少しだけ不安だけど

きっとオレがこうしたいと思ってるんだから、譲くんの望みも同じだよね?



「これで…いい?」

「駄目です、もっと…」

「うん、譲くんが望むならいくらでも」



肩の重みがなくなってしまうのは少しだけ寂しいけど、

このままじゃ口付けし辛いからと、肩を抱いて体を起こさせた。

まずは頬を両手で包んで、こめかみ口付けを落とす。



「譲くん、好きだよ」

「俺も、景時さんが好きですよ」



目を細めて嬉しそうに笑ってくれるから。

片手をずらして頬にも1つ。

今度は反対の頬に。

優しく唇に触れる肌の感触が柔らかくて、暖かくて。

これ以上はないと思っていたのに、底なしに幸せが膨らんでいく。



「譲くん、大好きなんだ」

「俺だって、景時さんが大好きなんです」



鼻の頭にも1つ。

眼鏡をそっと外して、閉じた瞼の上に。

反対の瞼にも。

気持ちがちゃんと伝わるように、想いを言の葉に乗せて。



「譲くん、愛しているよ」

「ええ、俺もあなたを愛しています」



唇同士が重なり合って、そっと瞳を閉じる。

少しだけ溶けて形の変わった氷が、カランと音を立ててコップの中で位置を変え。

ソファの上で開かれたまま放置された本が、扇風機の風でパラパラと捲れる音がした。


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