おくりもの

□お花見。
1ページ/1ページ

<お花見。>

どこまでも続く川沿いの桜並木を譲と並んで歩く。

散った花びらが風に舞い落ち、足元を一面の桜色へと染め上げている。

踏んでしまうのが申し訳ないような気がするが、踏まない事には歩けない。

できるだけ踏みつけない様に、そっと足を降ろしながら歩を進める。



この並木は車道沿いにあるせいで、花見と称した宴会をする者が少ない。

露天商も出てはいないし、人の賑わいもなくとても静かだ。

時折すれ違う人は、本当に花の美しさだけを求めているのだろう

誰もが花の美しさを賞賛しながら、ゆっくりと歩いている。



「こんな場所…お前よく知ってたな」

「先日、電車に乗った時に窓から見えたんだ。

どこまでも続く桜並木が綺麗で、譲とここを歩いてみたいと思った」

「そうか…うん、わかるよ」



その時見た桜はまだ満開ではなかったが、それでもとても綺麗だった。

だが、今こんなにも綺麗だと感じるのは、桜が満開になったせいだけではないだろう。

譲と並び歩き、同じ物を美しいと共感できる喜び。

それが何よりもこの桜を美しく見せているのだと思う。



「下に降りてみないか?」

「え?あ、ああ…そうだな」



なだらかな斜面を、譲に続いて降りる。

巾の狭い小川だけに対岸は近く、上を見上げると桜に囲まれているようだ。

突き抜けるような青い空に、薄紅色の桜がよく映える。

舞散る花びらは白く、季節外れの雪のようで、幻想的な世界を作り出している。



「綺麗だな…」

「ああ、とても綺麗だ」

「こんな風に桜を綺麗だと思ったのは初めてだよ」

「…そう…なのか?」

「ああ、今までこんなゆっくりと桜だけを見た事がなかったし…。

…敦盛と一緒だからなのかも知れないな」

「…そうか…私と同じなのだな」



ふと、譲を見ると目が合い、柔らかな微笑を向けられる。

整った神経質そうな顔立ちが、瞬時に花を咲かせたように和らぐ

私の一番好きな譲の顔だ。

私だけに向けられる私だけの奇跡。



「譲、髪に花びらがついている」

「え?どこ…?」

「私が取ろう、少しこちらに頭を下げてくれないか?」



どうしても触れたくなって、吐いた言い訳は白々しくなかっただろうか?


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ