おくりもの

□Amour pur
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《Amour pur》



額にひんやりとした何かが当てられて意識が覚醒する。

ゆっくりと目をあけると、薄暗い天井が蝋燭の明かりで浮かんで見える。

どうやら布団で寝ていたらしい。

鼻の下まで掛けられた布団のおかげか、すごく息苦しい。



何故…?



記憶をたどっても、布団に横になったという記憶は出てこない。

体に意識を集中させれば、全身が重くてだるいと感じる。

ふと手を動かそうとして、その手が誰かに握られていることに気付く。

視線だけで手を握っている人物を追うと、それは白龍だった。



「…白龍…?」

「あっ…譲、よかった。目が覚めたね?」

「俺…どうして…?」

「譲は、夕餉の支度をしている最中に倒れたんだよ。ここへは私が運んだ。」



白龍の言葉で、少しずつ記憶が繋がっていく。

今朝目が覚めた時、体に少しの違和感を感じていた。

大した事はないと思っていたけど、午後には熱が上がったのか相当キツくなっていた。

夕餉の支度をしている頃にはもう、立っている事すら辛くてふらふらしていたと思う。

そうか…俺、倒れたのか…。



そこまで考えて、途中までやっていた夕餉の支度が気になった。

全てを朔に任せたままでは申し訳がない。

慌てて体を起こそうとしたら、頭に激痛が走った。



「…ッ」

「駄目だよ、譲。ちゃんと横になっていて」

「でもっ」



肩を押さえつけて無理に寝かせようとする白龍を、懇願するように見つめて

起こして欲しいと訴える。

だけど、それは叶わなかった…。

悲しげに俺を見下ろし、握られた手に力を込められて諭され、何も言えなくなってしまう。



「譲、ちゃんと寝ていた方がいい」

「……白龍…」

「譲が倒れて、本当に皆が心配したんだよ。神子は泣いていたし、弁慶は怒っていた」

「先輩と…弁慶さんが…?」

「うん、他の皆も心配して、さっきまでここに集っていたんだよ」

「皆…ここに…?」

「そうだよ、だから譲はちゃんと休んで早く治さないといけないよ」



起こしかけた体を、横たえて布団に戻る。

白龍を見れば、ホッとしたように少し笑ってくれた。

みんなに心配掛けてしまったな…。

もちろん、白龍にも。



「みんなは…?」

「もう遅いからと言って、部屋に戻っ行ったよ」

「そうか……。俺、どれくらい寝てたんだ?」

「ずっと寝ていたよ、もうすぐ夜が明ける」

「そんなに?白龍はずっとついていてくれたのか?」

「うん、こうして…ずっと手を握っていたよ」

「悪かったな…」

「何故?私が勝手にしたことだから譲が謝る事はないよ?」



白龍はそう言ってくれるけど…ずっと座って見ているのは辛かったろう。

もう一度謝って、握られた手に力を入れる。

何もできないけど、感謝の気持ち。

白龍なら、きっとわかってくれるよな?

覗うように顔を覗き込めば、白龍がそっと微笑んでくれた。



「譲、具合はどう?」

「うん…よくはないな。」

「そう…朔がおかゆを用意してくれたよ。それと食後に飲むようにと

弁慶が薬をくれたけど、譲は食べることができる?」

「せっかく作ってくれたんだし、食べるよ」

「よかった。冷めてしまったけど…譲が食べたと知れば朔も喜ぶよ」

「じゃあ、悪いけど起きるのを手伝ってくれないか?」



背中に手を回して、そっと抱き起こしてくれる。

体を起こすと、やっぱり頭が酷く痛んで辛い。

倒れそうになる俺の背中に白龍が入り、後ろから抱くように支えてくれた。



「白龍…重くないのか?」

「大丈夫、私が支えているから安心して」



申し訳ないと思うけど、自分だけじゃ起きていられないから仕方ない。

体重を預けると、包み込むようにしっかりと受け止めてくれる白龍が頼もしいと思った。

ほんの少し前まで、俺の腰くらいまでしかなかったのに…。

急に浮かんできた不思議な感情を掻き消すように、おかゆを口に含む。

冷めているのに温かい。

味なんてわからないけど、美味しいと感じた。



「美味しい?」

「…ああ…美味しいよ」

「そう、ならよかった」

「…ッく…」

「譲?何故泣くの?」



情けなさとか、嬉しさとか…。

色んなものが込み上げてきて、涙が溢れた。

止まらない涙が更に涙を煽って、どうにも止めることができない。

嗚咽を繰り返す俺を、白龍は静かに抱きしめてくれた。



「辛い事があるなら私に話して?譲の幸いが私の願いだから」

「…ッく…」

「譲は私が守るよ、だからもう泣かないで」



こんなところは小さい時のままだ、なんて、頭の隅で少し思う。

勘違いの心配を、小さくても大きくても、体全部から発してる。

ありがとう、白龍。


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