おくりもの

□昼下がりのやすらぎ。
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<昼下がりのやすらぎ。>

ある晴れた日の昼下がり、やわらかな陽の光が差し込んで、この季節にしては

とても暖かな部屋の中、譲は白龍に手伝って貰いながら、取り込んだばかりの

洗濯物を畳んでいた。

小さかった頃から譲の後にちょこちょことついて廻っては、譲のする家事の手伝いを

嬉しそうにしていた白龍の、習慣のようなもの。

それは、体積が増して、譲よりも大きくなった今でも変わらず続いている。



「白龍、どうかしたのか?」



譲が作業の手を止めて、正面に座って作業をする白龍を覗き込むようにして尋ねた。

いつもならニコニコと笑みを絶やさずいる白龍が、今日は珍しく眉間に皺を寄せて

押し黙ったまま黙々と洗濯物を畳んでいるのだから、気になるのも当たり前のこと。



「…譲は、膝枕は好き?」

「は?…膝枕をして欲しいのか?」

「うん。だから…譲は膝枕は好き?」

「好きとか嫌いとかはわからないけど…白龍はそんなに膝枕が好きなのか?」

「うん、私は膝枕が大好き。神子が私の頭を撫でてくれてとても気持ちがよかった」

「そういえば、白龍は、よく先輩にして貰ってたな」



白龍の身長がまだ、譲の腹の辺りまでしかなかった頃、望美が白龍を呼んでは

膝で寝かせている光景を、譲はよく目にしていた。

白龍が大きくなってしまってからは、流石にそれはやらせられないと、朔が率先して

阻止しているから、その光景を目にする事はなくなったのだが。

そう考えれば、白龍も少し可哀相なのかも知れない。

譲は、畳みかけの洗濯物を端に寄せて胡座の体勢をとり、膝をぽんぽんと叩いて白龍を呼んだ。



「ほら、少しだけだぞ。俺の膝は先輩みたいに柔らかくないけど、我慢しろよ?」

「よかった、譲は膝枕をしてくれるんだね」



先ほどまでの憂い顔がぱあっと晴れて、たちまち嬉しそうになる白龍を見て

譲は少しホッとする。

白龍は譲を真似て洗濯物を端に寄せると、膝で立って譲の傍へと一歩近寄った。

そして、ごろんと横に寝かされたのは譲の方。



「白龍っ、膝枕されるのは俺の方なのか!?」

「そうだよ?私は譲に膝枕をして欲しい」

「それは“して欲しい”じゃなくて“してあげたい”って言うんだ」

「私は何かを間違えたの?」

「あ、ああ…まぁ、それはもういいよ」



捨てられた仔犬のように、しょんぼりと項垂れる白龍を見てしまえば、

それ以上は何も言えなくなってしまうのも仕方のないこと。

望美がしてくれていたように、所謂“お姉さん座り”の格好をして座った白龍の

太ももの辺りに頭を乗せられた譲。

起き上がってしまっては、白龍はもっと悲しい顔を見せるのだろうと

その体を起こす事もできないままに、譲は疑問を口にする。



「それで、どうして俺が膝枕をされてるんだ?」

「弁慶が、譲が少し疲れているように見えると言っていたよ。」

「弁慶さんが?」

「うん、譲は休めと言っても休まないと少し呆れていた」

「…そうか…」

「私も譲は少し働きすぎだと思う。」

「それで、白龍が俺に膝枕をしてくれるのか?」

「うん、これで寝ると、よく眠れる」



白龍の言う“寝心地がいい”は、望美のような柔らかい女性の膝と限定される。

筋肉のしっかりとついた、男の膝はごつごつして固く、お世辞にも“寝心地がいい”

とは言えないのだが。

白龍の気持ちが嬉しいのだろう、苦く笑いながらも、譲は筋張った太ももの上でごそごそと

頭を動かしながら、なんとか寝やすいところを探し出して、その場所に頭を落ち着かせた。

白龍の手は絶えずに、譲の頭を優しく撫で続けている。



「白龍、ありがとう」



微笑んで白龍を見上げる譲に、白龍も微笑みを返した。

譲の眼鏡を外して、先ほど端に寄せた洗濯物の上に置き、

またその手が、譲の頭を優しく撫でる。



「譲、目を閉じて」



眠れないと思っていた譲も、相当疲れていたのだろう。

部屋に差し込む柔らかな光に反射してキラキラ輝く、白龍の髪が眩しくて

白龍に促されるままに目を閉じると、いつの間にかゆっくりと眠りへと落ちていった。





*****





陽が落ちかけて、明るさを失いつつある屋敷の中。

誰かが廊下を走る、軽やかな音が近付いてくる。

やがてある部屋の前で足音が止まり、御簾を捲った隙間から足音の主が、

ひょっこりと顔を覗かせた。



「白龍、譲君を知らない?」



背中を向けたままの体勢で、首だけで足音の主の方に振り返り

そっと人差し指を口元で立てて、白龍がにっこりと微笑んだ。



「神子、静かに…譲が目覚めてしまう」



御簾をくぐり、部屋へと滑り込んだ望美の目に、白龍に膝枕をされて眠る譲が映る。

そのまま白龍の隣へと膝をついて、眠る譲の顔をそっと覗き込んで、小さな声で囁いた。



「譲君、すごく安心している顔で寝ているね」


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