おくりもの

□live together
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《live together》



うる…さい……。

宵闇の静寂の中、何かに呼ばれるようで、うっすらと意識が覚醒する。

目を開けるのも面倒だが、この感じには覚えがある…。

仕方なく目を開けると、目の前に薄闇が広がった。

頭上に手を伸ばし、枕元の時計を取り時間を確認する。



まだ…3時か。

あれからまだ2時間しか経っていない…。

うなされる事のないように、あれほど鳴かせてやったというのに。

全く…面倒なことだな…。



手元のスタンドに明かりを灯し、隣でうなされる譲を見る。

眉間に深く皺を刻んで、苦しそうに睫毛を震わせて

時折、小さな声で何かを訴えている。

先読みの夢を見るのだとか言っていたが…そのせいなんだろう。

このところ毎晩、同じようにうなされている



譲の口元に耳を近づけて、発した言葉を無理に拾ってやる。

別に…聞いたところで解決できるものではないのだが…。

断片的に紡がれる言葉は、文章として成り立たず

苦しく喘ぐ息遣いだけがはっきりと耳に届いた。



…ック…オレもずいぶんと可愛らしくなったものだな…。

愛しいと思える人間に出会い、それを守りたいと願うようになるなど

以前のオレには考えられなかったことだ…。

自分の取っている行動に自嘲気味の笑みを浮かべ、再び耳をそばだてる。



「…っ…やめ…とももり…」



やっと耳にした、聞き逃してしまいそうな程の小さな声は

確かにオレの名を呼んでいる。

ふっ…色気の無い話だ…うなされながらオレの名を口にするとは…。

どうせ呼ぶならもっと艶めいた声で呼ばれるほうがいい。

いや…そんな冗談を言っている場合でもないのか…。



「オレの名を呼ぶなら、せめて苦しそうにするな…」



夢の中のオレは…今でもお前を苦しめているのか?

それなら…もっと立ち向かえ。

あの日、オレに向けた怒りの眼差しをそのまま向けてやればいい。

オレをぞくぞくとさせるような、あの眼差しを……。

そうすれば、夢の中のオレもお前に夢中になるだろう…



譲の体を抱き寄せて、汗で張り付いた髪を梳いてやる。

ふんっ…所詮、オレにやってやれる事はこの程度か…。

存外、思い通りにならないこ事というのはイライラするものだ。

だが…持て余した自分の感情のままに動くというのも悪くない。

もう一度目を覚まさせて、今度こそ夢も見れないほど鳴かせてやろう。

譲の唇に唇を寄せ、奪おうとした瞬間。



「知盛っーー!!」



叫んだ譲と目が合う、その瞳には色がなく焦点が定まらない。

夢と現実の区別が、まだついていないと言ったところか…。

弱々しく力の無い瞳で、オレを見る譲に耐えられずに唇を奪った。

薄く開かれた唇に、舌を割り込ませ乱暴に貪る。

反応も抵抗も無かったそれに、やがて力が戻り……。

やがて、オレを突き飛ばして睨み付けた。



「ック…乱暴だな…。だがそれでいい…お前はそうしてオレを魅了し続けろ」

「ふざけんなっ!」

「ふざけてなどいないさ…お前のその瞳…オレをゾクゾクさせる…

血が沸き…生を実感する…。そんなお前ならオレを壊すこともできるだろう?」

「いい加減にしてくれっ!お前はいつもいつも…そうやって退廃的で…

常に破滅を願っているかのようで……。だから俺はあんな夢を……ッ!」

「ック…オレのせいか…」

「そうだろっ!?お前が入水なんてするからっ…!そうやって常に

破滅を望むようなことを言うからっ……。俺は、毎晩毎晩繰り返して……」



言葉の最後は嗚咽に掻き消された。

悔しいのか…それとも悲しいだけなのか…。

譲はオレの肩口に掴みかかり、顔を埋めて小さく肩を震わせる。

初めて見せられた譲の弱さ。

それがオレのせいだと言われれば、罪悪感がないといえば嘘になる。

譲に乗りかかるようにして、強く掻き抱く。



「お前はオレを求めるのか…?」

「…そうじゃなきゃ一緒に暮らしたりするかっ!」

「なら…オレはお前のものだ、お前が求め続ける限り…な」

「………」

「この命も…お前のもの…。許可なく捨てることはしないと誓おう」

「…知盛…?」

「だから…もう、夢は見るな…」



躊躇いがちに、譲の手がオレの背中に廻される。

やがてそれに力が篭り、強く爪を立てられた。

その反応が何故か嬉しいと感じ、苦笑する。

ふっ…くだらない…な、これが愛情というやつか。

でも…悪くない、お前となら…な。


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