おくりもの

□発明。
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<発明。>

室内に広がる満天の星空。

狭さを感じさせない、無限に広がる空間。

瞬く星々が競争しあうかのように輝き。

月もないその空間は、星達の独壇場。



夜の鳥も鳴かず。

小さな生き物達の息吹も聞こえない。

草木のざわめきも、川のせせらぎもない。

全くの無音。



普通ならありえない光景。

だけど、オレはそれを作り出した。

愛しい愛しい彼の為に…。





「こっちは星が少ないんだね〜」

「ええ。地上が明るいのと、空気が汚れているせいで

見える星は少ないんです」



いつもより、少し遅くなった買い物帰り。

見上げた空があまりにも寂しくて口をついた言葉。

譲くんは苦く笑いながら、丁寧に教えてくれた。



「目に見えないだけで、存在してるんですよ。」

「そっかぁ…見えないだけなんだね」

「ええ、あっちの世界の星空を知ってしまうと

こっちの星空はなんだか寂しいですよね」





寂しい。

その言葉がなんとなく耳に残って。

別に、見たいと言われた訳じゃないのに。

どうしても、

あの星空をもう一度、見せてあげたいと思ってしまった。



一生懸命考えたけど。

オレにはこれくらいしか出来ないから。

今日までかかって作り上げた渾身の作。



譲くん、喜んでくれるといいなぁ。



「譲くん、終ったらこっちの部屋に来てくれるかな?」



食後の片付けをしている譲くんに

部屋の襖から顔だけを出して声をかけた。

わかりました。と、返事は一つ。

にっこりと微笑んだ顔だけをオレに向けて。



驚く顔が見たいからね、まだ内緒。

そっと襖を閉めて、譲くんが入ってくるのを待つ。

こういう時は、待ってる時間も楽しみで。

驚いた彼の顔を想像しては、にやけてしまう。



「景時さん、お待たせしました」



襖の外から声がする。

いきなり開けたりしないのが彼らしい。

入っておいでよ。

声を掛ければ、襖がゆっくりと開いた。



「うわっ……!」



入ってきた途端に聞こえる驚いた声。

逆光で表情まで見えないのが少し不安だけど。

とりあえず、驚いてくれたから良しとして。



「どうかな?あの星空を再現したんだ」

「すごい…」

「ほんと?オレね、頑張っちゃったんだ〜!

譲くんに、どうしてももう一度、あの星空を見せたくてさ」



まずは自己主張。

譲くんの為に頑張ったよって。

どうしたってこの想いは

言葉だけでは伝えきれないから。



君に出会えた奇跡には敵わないけど。

君に選んで貰えた喜びには届かないけど。

どんなものにだって乗せて伝えたい。



「これ…景時さんが…?俺の為に…?」

「うん、そうだよ。……や、違うかな…?

君が喜ぶ顔を見たいって思ってる、オレの為…かな?」

「……有難う…ございます…」



斜め下に俯いて、暗さも手伝ってるから

表情まではわからないけど、声の感じで伝わる想い。

少しだけ照れてるんだよね?

詰まりながら届けられた感謝の言葉。

それは何よりも心に響いて。



結局、喜んでるのはオレなんだよね。



「ゆ、譲くん!襖閉めて、こっちにおいでよ。

ここ、ここ!譲くんの為の特等席だよ〜」

「あっ!はい」

「足元、暗いから気をつけてね」



色々考えてたら恥かしくなって。

気を逸らそうとして、側に呼んだ。

特等席は嘘じゃないけど。

くっしょんだって用意したんだ。

ちゃんと、オレの隣に並ぶようにね。



暗闇の中、譲くんが転んでしまわないように

そっと手を引いて誘導する。

繋いだ手を強く握らないのは

意識なんてしてないんだってオレの主張。



本当は…壊れそうなほど胸が高鳴ってるのにさ。



隣に座った君に意識を奪われながら

それを悟られないように星を見上げる。

それなのに君は…。

甘えてるのか、煽っているのか

オレの肩に頭をもたれ掛けてくる。



「ゆっ…譲くん?」

「…重いですか?」

「そ、そんなことはないよ〜!」

「なら…少しだけこうしていてもいいですか?」

「もちろんだよ〜!す、好きなだけそうしててよ」



あれ?なんか…くすくす笑われちゃってる。

思わずつられて笑っちゃったけど…。

本当に…君には敵わないなぁ…。

オレの無駄な努力を、ほんの少しの勇気に変えてくれる。



床についている君の手に自分の手を重ねて

今度は少し強めに握った。

お互いの顔すら見えない暗闇の中だって

迷うことなく君の手は探し出せるんだよ。



体を支える手がなくなれば

座っていることが出来ないから

2人、仰向けに寝っ転がって。

もちろん、繋いだ手は離さない。



「譲くんはあの星みたいだよね」



一際瞬く大きな星を指差して。



「え?どうしてですか?」

「うん、こんなたくさんある星の中でも

オレには絶対に見つけられる。

どんな時でもオレの道しるべになってくれるんだ」

「なら…景時さんはあの星でいてください」



オレの差した星の隣。

重なるように寄り添う小さな星。



「ずっとああやって側にいてくださいね

俺が…ちゃんと輝いていられるように」

「うん…うんっ!」



どんなにオレがかっこよく決めようと思ったって。

君の放つ、たった一言にすら敵わない。

こんな小手先だけの魔術よりも。

君の言葉の方が、ずっと素晴らしい魔法だね。



だけど、これだけはオレに先に言わせて?



「愛しているよ」


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