おくりもの

□僕の負け。
1ページ/1ページ

<僕の負け。>

「ちょ、ちょっ…まて!ヒノエ…お前、いい加減にしろっ!」

「ふっ、可愛いねぇ…あんたから誘ったんだろう?」



誰がいつお前を誘ったんだよっ!?

戦闘で足を怪我して、屋敷に戻ってから弁慶さんに見て貰っていたんだ。

弁慶さんが治療に必要なものを探してくるからと部屋を出て行ってしまって。

ちょっと用事を済ませたくて無理して立ち上がったんだけど……

上手く歩く事ができなくて、通りかかったヒノエに助けを求めただけなのに

何故かヒノエに押し倒されてる、この状況……。

足さえ動かせれば押しのけることだって出来るのに。



「ヒノエ、悪ふざけはそこまでにしてくださいね」

「ちぇ…あんたか。間が悪いねぇ」



あと少しで唇同士が触れそうなところで、弁慶さんが戻ってきてくれた。

助けてくれたのはいいけど…誤解されてないよな?そんな事が頭をよぎる。

実際、微笑を浮かべている弁慶さんの目は笑ってなくて。



「ゆずる、またあとでな」



なんて言いながら、ヒノエも逃げていく始末。

一難去ってまた一難。

今の状況はきっとこれだ。



「…弁慶さん…?」

「あぁ。譲くん、酷い目に合いましたね」



ヒノエの出て行った方を見て、何かを思案しているような弁慶さんが

気になって声を掛ける。

振り向いた弁慶さんはもう笑ってはいなくて。

俺のことを心配している風にも見えるけど、やっぱり怒ってるんだろう。

怪我の処置をしている間はずっと、会話すらしてくれなかった。



「譲くん。何があったのか話してくれますか?」



怪我の処置を終わらせた弁慶さんが、布団に横になっている俺の頭を

自分の膝に乗せると聞いてきた。

疑問系なのに、強制的に言わされる気がするのはなんでだろう?

まぁ…誤解されてしまうのは嫌だし、ちゃんと話した方がいいだろう。





∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞





「それで、たまたま通りかかったヒノエに助けを求めた…と?」

「……はい」

「ふぅ…」



譲くんの話を一通り聞いて溜息を吐く。

まったく…ちょっかいを出したヒノエには腹が立つけれど。

何よりも、油断をして譲くんを一人にしてしまった自分に一番腹が立つ。

本当に、譲くんに何もなくてよかった。

ヒノエがあれ以上のことをするとは思えないけれど……。

これからは用心するに越した事はありませんね。



「譲くん、君を一人にしてしまってすみませんでした」



膝に乗せた譲くんの頭をそっと撫でながら謝ると、譲くんの体から力が抜けた。

譲くんは聡い子だから、イライラしていた僕の態度を気にしていたんだろう。

怖がらせるつもりはなくて…もちろん譲くんに対して怒っていたわけでもない。

自分の感情が抑えられないほど、譲くんを好きになっていたんだと

こんな状況になって思い知らされる。



「譲くん、君を守れてよかった。怪我からは守ることが出来なかったけれど

先程の……ヒノエから守る事が出来て本当に良かったと思います」

「弁慶さん…有難うございます」

「いいえ、僕はお礼を言われるような事は何もしていませんよ?

君を守るのは僕の役目ですから、あれは当然の事をしただけです」



だってそうでしょう?僕達は恋人同士なんですから。

そう言えば、譲くんは少し怒ったような顔をして起き上がる。

それを無理に止めずに、背中を支えて起きるのを手伝えば

僕の肩を掴んで正面に向き合う形になり、譲君が僕を見つめた。



「弁慶さん、それは違います!俺はあなたに守られてばかりじゃありません

今は怪我をして動けないから仕方ないですけど……。俺だってあなたを

守りたい、そう思っているんですから」



感情的になると、言い切りで話すのは譲くんの癖。

一気にまくし立ててから、言ってしまった事を恥かしがるのもいつもの事。

そんな可愛らしい事を言い、その上頬を染めてそっぽを向いてしまう。

君は、一体これ以上僕を虜にしてどうしようと言うのか……。



「譲くん、君は本当に可愛い人ですね。」

「弁慶さんっ!」



僕が誤魔化したと思ったのか、君はまた怒り出してしまう。

こんな風に…僕が怒られても嬉しいと思ってるなんて、君が知ったらどんな反応を

してくれるのか。それすらも想像すると楽しくて仕方がないけれど。



「ふふ、違います。僕は君に守って欲しくないなんて言っていませんよ。

僕達は恋人同士なのですから、お互いを守りあい助け合っていきましょう。」

「そ、それならいいですけど……」



間違いを正して、君の望む言葉を贈れば…そんな風に照れながらも嬉しそうな

横顔を僕に見せてくれるから。

どの道を選んでも、僕を限りなく幸せにしてくれる君が愛しくて。

僕は君を、一生手放してあげる事はできそうにないんです。



「譲くん、愛しています」



もう一度体を横たわらせて、膝枕の体勢に戻してから囁く。

そうすれば、譲くんの顔がもっと近くで見れるから。

そんな事を考えているというのは、僕だけの秘密だけれども。



「弁慶さん、俺もあなたを愛しています」



言いながら僕の首に手を廻し、口付けを強請る君の可愛らしさは卑怯ですから。

ずるい僕と、卑怯者な君。

この勝負…あいこのように見えるけれど、どうしたって君に夢中な僕の負けですね。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ