青エク
□悪魔と花嫁 完結編
2ページ/5ページ
…私を見つけてくれて…ありがとう…
そう言って涙を流した彼女は大人になっていく…
どんどん遠くに行ってしまう…
彼女は結婚してからも度々あの日のように妖しく輝く月を眺めては…
メフィストが遠くに行っちゃいそうで怖いの…私なんて…置いていっちゃいそうで
そんな馬鹿げた事を気にして弱音を吐いた。
あり得ない事だと私は笑って彼女を抱き締めましたが…今ならその気持ちがわかる気がする。
置いていくのは私じゃなく彼女の方だ。
いつか彼女は私を置いていってしまう…
それを思うとこうやって彼女と共にいることが正しいのかわからなくなる…
でも…
彼女の紡ぎ出す音色は心地よさを運び…私を魅了してしまう。
いつか来るであろう別れよりもっともっと…大切な事があるのだと語りかける。
「そういえばこのヴァイオリンってメフィストが買ったんだよね?」
ヴァイオリンをケースに直しながら急に彼女がそんな事を言い出した。
あの家にずっと使っていたヴァイオリンを置いてきた彼女に私はとりあえず自分が使っていたヴァイオリンを差し上げた。
まぁすっかり気に入ったようで彼女はそれを使い続けているわけですが…
「…これって私と出逢ってから買ったの?」
「確かに貴女に出逢ってからヴァイオリンを弾くようになりましたがヴァイオリン自体は昔から持っていたものですよ」
あれは何年前でしょうね?
「昔から音楽に興味があったんだね♪」
興味というか…
「昔なんとなく楽器店に立ち寄った時に小さい女の子がヴァイオリンなんて弾けない…≠サう言って泣きそうな顔をしていたんです」
確かにひどい音だったかもしれませんが私は嫌いではありませんでした。
「その女の子と少しだけ話した後にヴァイオリンに興味をもって買ったんですよ?」
私がそう言うと彼女は一瞬目を見開いて…
「メフィストはその子に何て言ったの?」
とそんな事を訊ねた。
私は必死に記憶を呼び覚まさせてその少女との出逢いを思い出した。
ブロンドの髪に真っ白な肌
涙を溜めながら私を見上げた大きな瞳
確か…
「私は貴女の音好きです。貴女ならきっと世界一のヴァイオリニストになれる…そんな事を言いましたね」
そんな確証もない言葉を言った気がします…
「………」
「あの子は今もヴァイオリンを弾いていますかね…」
「………」
「もう泣いてないといいのですが…」
あの子に出逢ったから私の心の中に音楽が生まれた…あの子に出逢わなければ貴女の音色に導かれる事もなかったでしょう…
あの子にも…感謝しないと…
「って…さっきから黙りこくってどうかしましたか?」
何を考えているのかわからないが何故か嬉しそうに笑っている彼女…
「何でもないよ…?………ありがとう…」
「え?」
何でありがとうなどと…
その感謝の言葉の意味を問いただそうとした時に…
「あ…」
隣にあるリビングから小さな泣き声が聞こえてきた。
「起きちゃったみたいだね」
パタパタと声のする方へと駆け出していく彼女
私はそんな彼女の後を着いて行った。
無音に包まれていた今までが嘘のように音に溢れている今の幸せ…
彼女のヴァイオリンの音と
彼女の笑い声…
そして…
「ほら泣かないで?パパもママもそばにいるから」
小さな命が生きる音…
ずっと夢描いてきた光景だった。
悪魔の私に彼女を幸せに出来るのかずっと不安でしたが…
今なら…
「ねぇ…メフィスト私本当に幸せよ?ありがとう」
彼女のその言葉を信じられる気がした。
大事な我が子を抱く彼女は世界一幸せに見えた。