青エク
□L続ずっと
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ヴァイオリンをこよなく愛した彼女の晴れの舞台…
きっとこれが最後の彼女の音色だろう。
客席から彼女を見つめながら私はそう思った。
ヴァイオリンを構えてステージに立つ彼女は…美しく輝いている。
彼女は明るい光がよく似合う。
先ほど見た彼女の婚約者らしき人は私とは違い優しそうな人だった。
悔しいですがお似合いでしたよ?
きっと彼女はその婚約者の為にヴァイオリンを奏でる…そう私は思っていた…なのに…
私は言葉を失った。
死と乙女
それは確か…病気の少女と悪魔をモチーフにした曲。
その曲の意味を知ったのは随分昔だった気がする。
題名に惹かれて何となく聞いてみて私は思わず嘲笑いました。
死にゆく少女に優しい言葉をかける悪魔などなんて滑稽なんだろうかと思いました。
どうせ死ぬなら優しさなんて意味がない…やはり人間はどこまでも弱い生き物で悪魔などという存在にさえも優しさを求めるのかと私は笑った。
でも…違う…
彼女の奏でる死と乙女≠ヘ私の思っていた生ぬるいものではなかった。
彼女の音色はまるで…愛を歌うかのようだった。
悪魔の少女に対する音色は甘く
少女の安らかな眠りを表す音色は幸せに満ちている
まるで幸せな恋の曲のように見えた。
これは考えすぎなんでしょうか?
この曲を奏でる彼女は私に悪魔でも誰かを幸せに出来る…悪魔でも幸せになれる…といっているかのようです。
孤独を生きようと決めた私に優しく寄り添うかのようで…
涙が…溢れた。
深読みしすぎだとは思えない…
痛いくらいに彼女の気持ちが流れ込んでくるようだった。
私が悪魔だと知りながらも…まだ私を想ってくれている…そう私は確信した。
本当に私達の行く先にあるのは悲劇だけなのだろうか…
私はこの死と乙女≠フように彼女が最後の時を刻む瞬間に現れて…抱き締める事しか出来ないのか?
「…っ」
彼女に触れるのは怖い
傷付けてしまいそうで彼女を壊してしまいそうで…
でも私は知っている
恐れを越えた先にしか幸せはないのだという事を…
恐れをも越えるくらいに彼女を愛せないと彼女のそばにいる資格はないという事を…
私は…越えていけるのだろうか…
恐怖も悲しみも越えて彼女を抱き締める事が出来るだろうか…
今
すべき事はひとつだった。
彼女の音色に答えたい。
それだけです。
私は舞台で拍手を浴びる彼女を残して
会場を飛び出した。
人の流れに逆らいながら歩いていく中でどこからか桜の花が私の手の中に飛んできた。
その花びらが不思議と彼女の分身のように思えて…それは強く私の背中を押した。
もう…
私に
恐れはなかった。
20120603