ひまわり


□♯3 変わらぬ想い
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「あれ?銀さんどっちに曲がった!?」

「右アル」

「嘘つけェエ!!今、明らかに見てなかっだろォ!!」


物陰に身を潜めていたら、ふと銀さんの姿を見失ってしまった。


「大丈夫アルヨ。女の勘はよく当たるネ」

「…やっぱり見てなかったんじゃん。どうする?見失っちゃったよ?」

「一体誰を見失ったんだ?」

「え?…ゲッ!銀さん…!!」


振り返るとそこには、妖しい笑みを浮かべ僕らを見下ろす銀さんの姿が。

どうやら僕らの尾行はバレていたらしい。
呆気なく見つかってしまった。


「オメェら何やってんだよ…。ストーカーごっこかァ?どっかのゴリラみてーな事してんじゃねーぞ」

「…すみません銀さん。何て言うか、毎日毎日僕らに何も言わずに出かける銀さんが気になってしまって…」

「そうネ!いつもどこ行ってるアルか!?気になって夜も眠れないネ!!」(大嘘)

「あ?そんなの今に始まった事じゃねーだろうが。」

「でも、なんか最近の銀さん変ですよ。妙な事とかしてませんよね?」


真面目な顔して詰め寄る僕らに銀さんは盛大に溜め息を漏らすと、呆れ顔で言った。


「…わーったよ。そんなに知りたきゃ連れてってやる。ったく人を変な目で見やがって。そんなに信用ねーか俺は」


……残念ながら、日頃の行いからして信用は薄いですね。

ボソッと心の中で呟く。


すると、銀さんは頭を掻きながら気だるそうに歩き始めた。

それを見た僕と神楽ちゃんは顔を見合わせて小さく笑うと、銀さんの後を追った。



―――――――
――――
――



銀さんが立ち止まったのは、“くりーむぱん”という一軒の団子屋だった。

団子屋なのに何故店の名前が、“くりーむぱん”なのかは敢えてツッコまないが。

そこにせわしく働く一人の女の子がいた。

僕らの存在に気づいたのか、その女の子は店の中から出てきた。


「いらっしゃい!」


僕は思わず彼女を食い入るように見つめた。


まるで太陽のような彼女の笑顔。

例えるなら、そう…
蒼穹に咲く向日葵だ。



「もうすっかり常連さんですね。相変わらず暇な御方だこと」

「まぁなー、最近依頼が少なくてね…。お、なんか今日はいつもと雰囲気が違うな。何だァ?イメチェンか?」

「銀さんが見飽きないように、工夫してみたんです。どうですか?このお花の髪飾り。昨日買ったばかりなんですよ♪」

「あ?…あぁ、いいんじゃねぇの?似合ってる似合ってる。(って、オイ今のは反則だろッ。見飽きないようにって…くそっ、可愛いじゃねーか!)」

「やっぱり銀さんもそう思います?屍のような目してるくせに見る目はあるんですねー」

「(か、可愛くねー!)オイ褒めてやったのにそりゃねーだろ。何だよ屍のような目って。銀さん生きてるから。いざという時は煌めくんだからな」



……何、コレ。

なんか親しげに(?)話してるんですけど…。
ていうか常連って…

どういう事だ。


僕は目の前の光景に呆然と立ち尽くしてしまった。
隣にいる神楽ちゃんも、目を疑っている様だ。


「あら?そっちのお二人は初めて見る顔だ。もしかして銀さんの連れですか?」


銀さんから少し離れた場所で、呆気に取られている僕らを不思議そうに見つめる彼女。


「あぁ。コイツらがこの間話した俺んとこのクソガキ共だ。」

「え?この二人が一夜の過ちとやらでできちゃって仕方なく引き取ったっていう銀さんの子供?懲りずに二人も…まぁお気の毒に…」


──パシンッ


「痛っ!!何するんですか!?」

「何はこっちだっつーの!んな話一度もしてねーだろが!何勝手に俺の子供にしてんだよ!!しかも何その設定!?一体俺をどーいう目で見てるワケ!?」

「そーいう目」

「そーいう目ってどーいう目!?間違っても俺はそんな過ち起こさねーようちゃんと配慮するね!」


何の話してんだよこの人。


「もう、冗談だってば。頭叩かなくたって良いじゃないですか…ていうかそんな汚れた手で私に触れないで下さいよ。私どん引きしてますから」

「何なのこの子ォ!!?冗談とか言っときながら全く俺のこと信用してないよねェ!?完全に誤解してるよねェ!?!?」

「それにしても、この二人が新八君と神楽ちゃんかァ…」

「…あ、無視?」


何だかよく分からないけど、銀さんと言い合いを終えた彼女は再び僕らの顔をまじまじと眺めた。


ていうか、あの…
そそそんなに見られると恥ずかしいんだけど…

なんか…
だんだん体が熱くなっ…


「はっはじめまして!志村新八ですっ!!16歳です!!」


気づいたら僕は叫んでいた。(何故か年齢まで)

チラッと隣を見ると、僕を見る神楽ちゃんの視線が心なしか痛い。


「コイツのことはダメガネと呼ぶアル。」

「ダメガネ…?」

「ちょっと神楽ちゃんんん!?何言ってんだよ!!」

「ダメガネって何?」

「駄目なメガネ。略して“ダメガネ”アル。」

「ああ!なるほど!」

「あの…ちょっと…納得しないで下さい」

「私は神楽。好きな食べ物は酢昆布!よろしくアル。」

「夏川日和です。よろしくね、神楽ちゃんとダメガネ君!」

「……泣いていいですか」



………って、

ちょっと待てェェエエ!!!!


なんか流れで自己紹介しちゃったけど…

え?何?いつも銀さんが来てる所ってココ!?!?
じゃ、じゃぁこの人ってまさか銀さんの……



「あ、あの…!銀さん!」

「何だ?ダメガネ君。」

「……銀さんまで僕を苛めるんですか。じゃなくて、コレ、一体どういう事なんですか?」

「あ?何がだよ」


日和さんが店に戻っていなくなった今、僕は思い切って銀さんに訊いてみる事にした。


「何がじゃないですよ。僕らに内緒にしてたなんて水臭いじゃないスか!」

「だから何がだよ」

「私、びっくりしたネ!銀ちゃんのくせにあんなべっぴんさん落とすなんて、一体どんな手を使ったアルか!?」

「…お前らいい加減にしろよ。俺をおちょくってんのか?」

「照れなくたっていいですよ!僕達もう分かってますから!」

「そうネ!!今更隠す必要ないヨ!!ぶっちゃけちまえヨ!」

「だーかーらー、何のことだっつってんだろーが!!!」



……あれ?

違うのかな?






「ちげーよ馬鹿。何、お前らずっとそんなくだらねェこと考えてたわけ?思い込みもいいとこだなオイ」

「だって私、この間銀ちゃんがお花買ってたの見たネ!あれ日和にあげたんじゃないアルか?」

「何で俺がアイツに花なんかやらなきゃなんねーんだよ。大体オメェら話をすぐそっちに持っていくなっつーの。」

「そ、そうですよね!あはは。何だ、僕らの思い過ごしだったみたいだね」

「何だヨ。つまんねーの」


何だァ。
思い違いだったのか。

僕は何となく残念な気持ちになった。

ん?
じゃぁ、銀さんは何のために花を買ったんだろ?



「お待たせしましたァ!」


そうこうしてるうちに、日和さんが団子をたくさん持って戻って来た。
そして僕らの前にそれを笑顔で差し出してくれた。


「キャッホォォォイ!」

「…って、神楽ちゃん食べるの早ッ!!」

「あははっ。団子はたくさんあるからみんなどんどん召し上がってね!」

「あの、ちょっと?たくさん召し上がられると俺ピンチになるんだけど。ていうかすでに大ピンチ何だけど…!!」

「銀さん〜、今日という今日はきっちりと払ってもらいますからね〜」

「あは…ははははは…」



銀さんが何のために花を買ったか何て僕が知る必要はないわけだし。
とりあえず、銀さんに彼女が出来る日は程遠いようです。

僕は相変わらずな銀さんを見てそう思った。


それにしても…
銀さん、何でこのお店…日和さんの事今まで僕らに話してくれなかったんだろ…?

まぁ、いっか。


 
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