ひまわり


□♯9 不慮の災難
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すっかり日も落ち、銀さんと新八君と別れ私たちはそれぞれの仕事へと向かった。
向かう前、新八君の刑を執行しボコボコに殴ってやりました。

そして私と神楽ちゃんは今、お妙さんが働く“スナックすまいる”の控え室にいる。
控え室にはドレッサーのようなものがいくつか置いてあり、その横には色鮮やかな衣装がパイプハンガーにずらりと並べられていた。

キャバクラに入ること自体初体験なのに、その控え室まで拝見できるとは思ってなくてちょっと興奮する。

そんな私だけど、少々気になることが。


「お妙さん、ひとつ訊いていいですか?」

「なぁに?日和ちゃん」

「この格好おかしくないですか?ていうかおかしいですよね確実に」

「どうして?」


と小首を傾げるお妙さんには悪いが、私にはこの状況が全く理解できない。

というのも、ここに来て早々私はお妙さんと髪型がオールバックの店長にファッションショーをさせられ、挙げ句の果てに『君にはコレが一番似合う!』とか何とかで最も派手な着物(個人的に)を選びやがったグラサン髭店長によって何故かそのど派手な着物に着替えさせられたのだ。


「いやだって裏方で働くなら…こ、こんな丈の短い着物着る必要ないと思うんですが」


言いながら私はスカートの丈をぐいぐいと下へ引っ張る。

こんな丈の短いスカート穿いた事ないよ!それに短すぎて股がスースーする。
全身鏡で自身を何度もチェックしてみるが、どうにも恥ずかしくてたまらない。
ニーハイソックスがまたなんかエロいしコレ…。


「あらやだ、言わなかったかしら?日和ちゃんはキャバ嬢としてお客様を接待することになったのよ」

「は?」


え?ちょっと待て今なんて…


「だから、日和ちゃんはこれからキャバ嬢になるのよ」


わ、

私がキャバ嬢!!!???


そんなこと一言も聞いてないんですけどォオ!!!!


「あ、あの、お妙さん?私と神楽ちゃんは裏方だって言ってたじゃないですか!」

「そんなこと言ったかしら?悪いけど、覚えてないわ」

「……」







騙されたァァアアア!!!!!!



何ということだ!!
この人自分の言った事笑顔であっさりなかったことにしたよ!!
とんでもねー女だよ!!

全ては私を騙すための口実だったというわけか!!


「神楽ちゃぁぁん…」


私は助けを求めるかのように神楽ちゃんに視線を投げかけた。

ってアレ、神楽ちゃん?


「日和ィ、ここまで来たらもうやるしかないネ」


そう言って覚悟を決めたかのような眼差しを私に送ってくる神楽ちゃんの顔が……え?お化け?


「か、神楽ちゃん…?どしたのその顔…」

「見せてやれヨ、日和の本当の姿」

「え」

「日和のその口の悪さなら男共みんないちころネ。一発KOアル」

「それダメだよね。いちころにしちゃダメな方だよね」

「大丈夫アルヨ。きっとみんな日和にメロメロアル」

「いやだから口の悪さでメロメロに出来るわけないでしょ。てかそういう問題じゃないからっ!」

「何だヨ。適当に偽りの笑顔振りまいて客に媚び売ってりゃイイだけじゃん。世の中そんなに甘くないネ。人生、嫌でもやらなきゃいけない時もあるアル」

「…なんか人生について語りだしたんだけど。ていうかやる気満々の奴に言われてもな…」


顔が化粧でお化けみたいになってる神楽ちゃんは髪型もおかしな事になっていて、普段のお団子頭ではなく下ろした髪の毛先がなんかくるくるしていた。それ何ヘアー?

やるしかない、とか言ってたけど、どう見てもコレはやる気十分である。
何となく裏切られた気分だ…。

そんな神楽ちゃんを尻目に溜め息をひとつこぼすと、店長に視線を移した。


「無理ですよ、私。キャバ嬢なんて…」

「そんなこと言われも、君、万事屋なんでしょ?何とかやってくれんかね。もう他に頼れる娘がいないんだよ」


ぐっ…

万事屋の名を出されると言い返せない。
銀さんのメンツを潰すわけにいかないし、ここは腹を括ってやるっきゃないか。

ぶっちゃけ銀さんのメンツとかどうでもいい…っていうか寧ろズタボロになっても構わないんだけど、店長さんかなり焦ってるみたいだし、やっぱり人の役には立ちたいからさ。


「それに君、顔はカワイイからさ。色気はないけど、まぁ化粧とかで何とかなるからそこは我慢するよ」

「色気なくて悪かったですね」


ヒゲ店長に上手く言いくるめられて(?)私はキャバ嬢になることを決意した。

幸い、団子屋で働いていたのもあって接客は慣れてる。問題はお客さんに満足してもらうためにどう媚びを売るか、だ。


「まぁまぁ、とりあえず座って日和ちゃん」


どうしたらお客さんの機嫌を取れるだろうか、と一人頭を捻っていたら突然お妙さんに背後から肩を押され、ドレッサーの前に座らせられた。


「着物も決まったことだし、次はおめかしね」


そう言って意気揚々と私の前髪を掻き分けるお妙さん。
最近少し伸びてきて、目にかかるかかからないかくらいの長さの前髪を大きなピンで留め、露わになる顔の輪郭。


「日和ちゃんの肌、とってもキレイね。きめ細やかで化粧ノリが良さそうだわ」

「え?そうですか?」


お妙さんは感心したように鏡越しで私の顔を見つめて言う。
ちょっと恥ずかしい。


「化粧水とかいつも何使ってるの?」

「…えーと、特に何も?」

「……。ふふ、日和ちゃんは冗談が上手なのね」


鏡の向こうに映るお妙さんの表情が一瞬真っ黒い笑顔になった気がした。
目をこすってもう一度見てみるが、やはり気のせいだったようだ。


「…で、何使ってるの?」

「え?あの、だから特に何も使ってないです」

「あら、こんな艶々な肌して何も使ってないはずないじゃない。私の目を誤魔化そうったってそうはいかないわよ」


あれ、おかしいな。
お妙さんがどす黒い笑みを浮かべているんだけど。気のせいだよねコレ。あれ、気のせいじゃないのかな。まだ真っ黒く笑ってるよ恐いんだけど。

ていうか痛い!
なんか思いっきり頬つねられてんだけど!何で!?


「ちょ、お妙さん!痛いです」

「さぁ、早く薄情しなさい。今なら許してあげるわ」

「ええ!?何故!?許してもらわきゃいけないような事、私しましたっけ!!??」

「してるわ、現在進行形で」

「意味分かりませんん!!」


お妙さんが恐いよォオ!!!!
もはや笑みすら浮かべてない!!
全身から黒いオーラを漂わせてるお妙さんが私の目の前に映ってるんですが!!
何でだ!?私なんかしたっけ!?


背中を冷や汗が伝って気持ち悪いことになってる。


「……お妙ちゃん、そろそろ開店時間になっちゃうんだけど」


私たちのやり取りに痺れを切らしたのか、店長さんが催促した。おかげで私はつねり攻撃から逃れることができた。


助かったぁ…。
店長さんもいい所あるではないか。


 
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