ひまわり
□♯8 空腹と依頼
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トントンと包丁でまな板を打つリズムの良い音と、食欲を掻き立てる良い匂いが漂う台所。
火にかけてあるお鍋の蓋を開けると、ふわりと味噌汁の匂いが広がった。
そして味噌汁をおたまで少量すくって口へ運ぶ。
「…日和さん、さっきから味見してばかりじゃないですか」
「え?あ、ごめんごめん」
隣に立つ新八君が呆れ顔で私を見ていた。
今日は新八君と一緒に朝ご飯を作っています。が、腹ぺこな私は新八君に料理を任せっぱなしにして、先ほどからフライングしまくっている。
早起きすると、どうも腹が減って仕方なくなる。
いや、正確には腹が空きすぎて目が覚めてしまうのだ。
ここ最近、まともにご飯を食べていない。
というのも、仕事の依頼が全くない日が続き、収入がゼロなので食材を買うお金がほとんどないからだ。
細々とした苦しい生活には慣れているし、大概予想はしていた事態なのだがさすがにここまで来ると私も驚いてしまう。
万事屋恐るべし。
空腹で寝ていられなくなるなんて初めての体験だよ。
満腹感はいらないが、せめて腹八分目…いや、腹四分目で良いからこのお腹を満たしてほしい。
──ぐぅぎゅるるるる
言ってるそばから鳴りやがったよこのお腹。
「……ご飯にしましょうか」
自重することを知らないその音を聞き、新八君が苦笑いを浮かべた。
まったく、
お腹は正直者で困る。
―――――――
――――
――
「銀さん、仕事探しに行こう」
「んー?」
「このままじゃ明日からのご飯がなくなっちゃうよ」
「んー…」
「オイコラ聞いてんのか天パ」
「え?あぁ、聞いてる聞いてる。明日の飯な、大丈夫だ。明日は日和を美味しくいただくから」
「何?それどういう意味で言ってんの?ぶっ殺されたいの?」
駄目だ。
この男は危機感というものを持ち合わせていないようだ。
朝食を食べ終わった途端、コレだもの。
毎度のようにソファーに寝そべってジャンプを熟読する姿には呆れて深い溜め息しか出ない。
「…ねぇ、新八君。この家、貯金とかないの?」
「……あったらこんなに苦労しません。それに、あの人が預金なんて真似すると思いますか。お金が入った途端パチンコに行くような人ですよ」
「……だよね」
ああ、やっぱりこのままじゃアカン。
私が万事屋に住み込むようになってから既に一週間ほど経っているけどまだ一度も依頼がないし。これは早急に他の仕事も見つけた方が良さそうだ。
そういえば、私の貯金ってあったっけなぁ……
あ、
ある!!!!!
「そうだ新八君!!私の貯金が残ってるはずだから、それで何とか今のこの瀕死状態な万事屋を救うこと出来ないかな?」
「(瀕死って…)でも、そんなのいただけませんよ…」
「いいじゃない。だって私、もう万事屋の一人、でしょ?私のものは万事屋のもの同然だよ」
そう言って私は新八君にニッと笑ってみせた。
「でも…」
「ここは素直に受け取ってよ、ね?」
「…そうだな。せっかくの申し出だ。日和の言うとおり、有り難くもらっとくとしようや、ぱっつぁん」
と話に割り込んできた銀さんはいつの間にか上体を起こしどっかりソファーに座って鼻くそをほじっていた。
その上からな物言いといい偉そうな態度といい、なんかイラッとくる。
……やっぱりコイツにはあげたくねぇかもな。