ひまわり
□♯5 新しい家族
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目を開けると、そこに見知らぬ白い天井があった。
むくりと起き上がって周りを見渡してみる。
……ここはどこだ?
一体、私はどれくらいの間眠っていたのだろうのか。
昨日…いや、一昨日かも。
もしかしたら一週間も前の事になるかもしれない記憶を辿る。
あの日は、万事屋のみんなに買い物を手伝ってもらって、ついでにおじいちゃんのお墓参りもつき合ってもらって……
それで、
……それで?
懸命に思い出そうとするが、
何だろう…
思い出したくない出来事があったような気がする。
胸中がやけにざわつく。
何があったんだっけ…
「夏川さーん」
すると、部屋の中に眼鏡をかけたナース服のオバサンが入ってきた。
「目が覚めたんですね。気分はどうですか?」
「…気分、は最悪です。朝からコスプレした痛いオバサンを見てしまったので」
「コスプレじゃないから。ここ病院だからね。あと今は朝じゃなくて昼ね。それで身体の方は大丈夫?」
「……言われてみると、身体中が痛いかもしれないです。あと頭も痛いです。何故か吐き気も…あぁ何だか目も痛くなってきました。どうしよう目の前に変なものが見えます。痛々しいオバサンがいます」
「だからコスプレじゃねぇって言ってんだろーが!てめーはバカか!頭かち割ってやろーか!?」
「あの、ところで…私はどうしてここにいるんでしょうか?」
「(切り替え早ッ)……昨日の夜ここへ運ばれてきたんですよ。あなたも災難だったね…」
「昨日の…夜…?」
「怪我は大したものじゃなかったので今日で退院できますからね。あ、さっきお迎えが来ていらっしゃってましたよ」
迎え……
私に迎えなどあるのだろうか。
ここが病院で、なぜ自分がこの場所で寝ていたのか理解するのに時間がかかったが、私は昨日と思われる記憶を思い出していた。
最後に見た光景──…
それは真っ赤な炎だった。
突然の爆発音と共に目の前が真っ黒になって、気づいた時には一面が赤い炎に包まれていた。
その後の記憶がないのは、気を失ったからなのだろうか…。
───あの店はどうなったのだろう。
ふと思う。
それが一番気がかりでならなかった。
すると病室の扉の向こうで何やら話し声が聞こえてきた。
「…お、おい神楽。お前先に入れ」
「なっ何でアルか?銀ちゃんが先に入ってヨ!」
「ちょ、押すなって!だってもしかしたら寝てっかもしれねーだろっ」
「大丈夫ネ!きっと日和の寝顔は可愛いアル!」
「そーいう問題じゃねーんだよっ!」
「もう何やってんの二人とも!さっさと入ればいいじゃないですかっ」
「そういうお前が先に入れヨ!」
「ちょっとオメーら何やってんだよ!!」
この騒ぎを聞いたナース服のオバサンが怒鳴りながら勢いよく扉を開くと、やっぱりというか何というか、お馴染みの三人が部屋に雪崩れ込んだ。
「や、やぁ日和」
「身体の方は大丈夫ですか?」
片手をあげる銀さんとその横に立つ新八君の表情が、気のせいか曇っているように見える。
それに、いつも明るい神楽ちゃんまでもが下を向いている。
そしてナース服のオバサンが部屋を出て行くと、何故か私たちの間に異様な空気が流れた。
今日のみんな、なんかシリアスな感じになっちゃってどうしたんだろう…
ていうか、
「みんな…どうしてここに?」
「…あの、日和さん…」
「?」
新八君に視線を向けると彼は口ごもってしまった。
「どうしたの?」
「…えと、その…」
「……もしかして、昨日のこと何か知ってるの?」
「──!」
試しに訊いてみたつもりだったが、新八君の反応から何となく言おうとしていた事に察しがついた。
同時にこの胸のざわつきの正体が分かった気がした。
「ね、ねぇ…、あの店…どうなったの…?」
声が震えた。
一番知りたくて、一番聞きたくない質問。
「日和さん…」
「お願い、教えて…」
沈黙が続く中、次にくる言葉を待っていると、不意に銀さんがぽつりと呟くように言った。
その言葉に私は呆然となった。
「全焼…したよ」
全焼…?
ウソ…
ウソだ…
聞き間違い、だよね…?
「日和…」
銀さんが私の腕を見つめた。
その視線の先は、服の袖から少し覗かせた包帯。
「……ごめんな…」
急に、思い詰めたような表情で私に謝った銀さん。
どうして?
何で銀さんが謝るの?
「…ちょっと、銀さんってば何で謝ってるんですか?だって…今の、嘘でしょ?私をからかってるだけでしょう?」
そうだよ。
もしかしたらコレはドッキリかも。
ほら早く例のプラカード出して『ドッキリ成功〜』って言いなさいよ。
そうして笑ってよ。
お願いだから、
嘘だと言ってよ……