ひまわり


□♯4 護りたいもの
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ある日、店の定休日に一日買い物へ出かけようと思った私は、江戸の町をぶらりと歩いていた。


昼下がり。

荷物が重く、少し疲れた私は一休みしようと近くの広い公園のベンチに腰を下ろしていた。


「ちょっと、買いすぎちゃったな〜」


手元に置いた荷物に目をやると少々大きめの紙袋が三袋。

先ほど可愛らしいお店を見つけ入ってみたら、案の定、自分好みのものがたくさんあったので思わずわんさと買ってしまったのだ。

まだこれから大江戸スーパーで買い物して、おじいちゃんのお墓参りもしようと思ってたのに…。
そう考えて溜め息をついた時だった。

近くで聞き覚えのある声がしたと思った途端、目の前が真っ暗になった。

しかも何か頭がズキズキ痛むんだけど。何故に?


「コラ定春ー!!噛みついちゃ駄目って言ったでしょーが!!ペッするアル!ペッ!」

「すみませ〜んっ!!大丈夫ですかァ!?」


すると突然、視界が明るくなった。
と思ったら目の前には、


「あれ?新八君…に神楽ちゃん!!」


こちらに走ってきたと思われる見知った二人が立っていた。


「あっ、日和さんじゃないですか!」

「日和ィ!!久しぶりアルな!元気だったか?」

「うん!元気だよ!ていうかこの前会ったばかりだよね」

「…頭から血を流しながら元気と言える日和さんって、ある意味スゴイですね…」

「わぁっ!このワンちゃんは?」

「定春いうネ!ウチで飼ってるアル。可愛いでしょ」

「ワン!」

「か、可愛い〜!!私のウチにも欲しいいい!!」


おっきいー!真っ白ー!
しかも超もふもふだぁ!
素敵っ♪


「さっきは定春がごめんヨ。よく人に噛みついてしまうネ。でも定春悪くないネ。私のしつけがまだまだアル…。だから許してあげて」

「えっ?あぁ、だからか。どうりでさっきから頭がズキズキすると思ったぁ」

「いや、今頃気づいたんかい」


出た!
新八君のさりげないツッコミ。

ていうか…


「銀さんは?」


ふと銀さんがいないことに気づき、私は辺りを見回してみた。
だけど、いつもの気だるそうな人が見当たらない。

今日は一緒じゃないのかな。
と考えていると、頭上で声がした。


「ここにいるぜ。」

「ぅわっ!銀さん!!?」


見上げるとそこには、私を見下ろす銀さんの笑った顔が。
銀さんはベンチの背もたれを挟み、ちょうど私の真後ろに立っていた。


「日和ちゃんは銀さんがいないと寂しいのかなァ?」


銀さんは、ニヤリといたずらっ子のような笑みを浮かべた。


「んなっ!そんなわけないでしょ!!」

「嘘つけ。ホントは俺に会えて嬉しいくせに」


そう言われて顔が熱くなったのが分かった。

ううっ…何でだ。


「あらら、顔赤いよ〜?もしかして図星だった?」

「う、うるさい!あなたに会っても何も良いことなんてないので全然嬉しくありませんから。どっか行け!この疫病神!じゃなかった、腐れ天パ神!!」


からかってくる銀さんに、私も負けじと応戦する。


「オイ、何で今言い直した?腐れ天パ神って何だ?え?」

「焼け野原のような神様のことです」

「焼け野原って何?この頭か?この頭のことなのか?」

「……」

「なにその哀れみの眼差し!!なんかムカツクゥ!!」


あっかんべえをすると、鼻を摘まれた。


「っとにテメーは…、もうちょい素直になったらどうだよ」

「いでで…私はもう十分素直ですー」

「あ、そう」


しかめっ面の銀さんは、漸く私の鼻から手を離してくれた。


「ところで、皆さんはお散歩ですか?」

「まぁな」

「そう言う日和さんはどうしてここに?」

「今日はお店の定休日だから買い物してたんだ。でもちょっと疲れたから休憩してたの」

「ばーさんみてぇだな」

「黙れ。」


いつの間にか隣に座っていた銀さんの頭を殴る。

これでもピチピチの17歳ですからっ!


「…じゃぁ神楽ちゃん、定春連れて向こうで遊んでこよっか」

「えー何で?私、日和とお話したいアル」

「いいからいいから」

「あっ、何するアルか!離すネ!」


すると新八君が神楽ちゃんの手を引き、定春も一緒にどこかへ歩き出した。


「おうおう。ガキはその辺で遊んでろ」


そんな二人を銀さんは手で追い払うようにシッシッとやった。
それを見た神楽ちゃんは、しぶしぶ新八君の後をついて行った。


銀さんと二人っきり…。

まぁ、今更ドキドキすることなんてないのだけれど。
この人にドキドキするくらいなら、新八君の眼鏡にドキドキするね。あの縁の曲線に。


「あ、そういえば銀さん。今日銀さんのお知り合いさんと会いましたよ。」

「知り合いィ?どんな奴だった?」

「えっと…何かやたら派手な着物を纏っていましたね。男の人なのに」

「(派手な着物?)」

「顔は編み笠かぶっていたので良く見えなかったけど、左目に包帯を巻いてて…あ、腰に刀を差してました」

「!!」







───高杉晋助。



瞬時に頭をよぎった人物。


いやいや……まさか、な。

片目に包帯巻いた侍なんてそこら中どこにでもいんだろ。
それこそ派手な着物の男なんて腐るほどにな。


しかし、思い当たる人物が他にいない。
銀時の表情は自然と険しくなった。


「…そいつ、何か言ってたか?」

「んー……」


 
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