ひまわり
□♯2 笑顔のために
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辺りはもうすっかり春色に染まり、花便りも伝わる今日このごろ。
「よォ、日和チャン。」
「あっ!銀さん!また来てくれたんですね」
「おう。君のためなら毎日だって来てやるぜ?」
「無理しないで下さいよ。あなたの懐事情は知ってるんですからね」
「…あ、バレてた?」
「バレバレですよ。だいたい真っ昼間からこんな所でぷらぷらしてる大人がいますか。このプー太郎が。」
「…相変わらず厳しいなァ。銀さん傷ついちゃうな」
「本当の事でしょ。」
ここは町外れにある団子屋さん。
祖父が経営するこのお店に私は居させてもらっている。
私が来る前、アルバイトさんがいたみたいだけど、今は私と祖父の二人で店を切り盛りしています。
「はい、銀さん」
「ん?おぉ、さんきゅ」
店の外にある長椅子に腰を下ろした銀さんに、私はいつものようにみたらしがたっぷり乗った団子のお皿を渡す。
ニコッと笑うと、彼も笑顔で受け取ってくれた。
「……やっぱここの団子はうめェわ。」
そう言って団子を頬張る銀さんは、私と出会ったあの日から良くこの店に足を運んでくれるようになった。
別に金無い奴は来なくても良いんだけど。
とか思ったりしちゃったことは内緒ね。
まァお世話にも綺麗とは言い難いお店だけれど、団子の味は格別なんだからな!たぶん!
次々と口の中へ団子を入れては美味しそうに食べてくれる銀さん。
すると、
「もうこの町には慣れたのか?」
不意にこんな事を聞いてきた。
私はニッコリ微笑んだ。
「はい!かぶき町って素敵な町ですね。私とても気に入りました!」
「そりゃ良かった」
「それもこれも銀さんのおかげですよ」
「んァ?俺ァ別に何もしちゃいねぇよ」
「何言ってるんですか!私をいろいろな場所に案内してくれたじゃないですか。すっごく助かったんですからね」
「あぁ、アレはまぁ…アレだ。ただの気まぐれだ」
と銀さんはちょっと照れ臭そうにして言った。
そんな彼には本当に感謝してもしきれない。
私なんかのために、どうしてここまでしてくれるのか不思議なくらいだった。
別に案内しろなんて誰も頼んでいなかったけどね。
でもせっかくの厚意を踏みにじるわけにもいかないし。
ありがたく利用させていただきましたとも。
現に、助かったというのは事実なのですから。
「あの時の銀さんは格好良かったなぁ…」
「え?何?俺に惚れちゃったって?」
「いや、そんな事は言ってませんけど。」
確かに“あの時”の銀さんは、少なくとも役立たずではなかった。
だけど、実はこんなダメなプー太郎オッサンだった人に格好いいとか良い人だなぁと思ってしまった“あの時”の自分が恥ずかしい。
できれば記憶から抹消したい。
というか、今目の前にいるこの人を抹消したい。
やっぱり思い出は綺麗なままであってほしいからサ。
って事で早く死んでくれないかなこの人。
「そんな事より銀さん、たまったツケ払って下さいよ。」
「…いやァそんなにアピールされちゃぁなァ…俺だって困っちまうぜ。」
「困ってるのはこっち何ですけど。」
「でもそんな女、俺ァ嫌いじゃないぜ?」
「あのぉ、話聞いてます?どうでもいいから早くツケ払って下さい。」
「まぁ日和ちゃんが、どーしてもって言うんなら考えてやってもいいけどよォ…」
「いいから出すもん出せやこの天パ野郎」
「俺と一緒になるんだったら、それなりの覚悟はしてた方がいいぜ?」
「何の話してんだァァアア!!ていうかさっきから人の話聞いてねーだろォオ!!」
突然、頬を紅く染めながらワケの分からない事を言い出した銀髪。
どうやらこの人はツケを払う気がないようです。
マジで早く死んでくれないかな。