chocola

□ドキドキしてもいい?
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ミーーーンミンミンミンミン

「こんな日に、屋外だなんて…さすがに誰も見学に来てないなぁ(苦笑)」

蝉の声が園庭に響きわたって、あまりの暑さに、そろそろ体力の限界かなと、ボーっと考えていた。

その時、ナナの顔に向かって誰かの蹴ったボールが飛んで来た。

「はやとくんママ!」

佐藤先生が叫んだ時、思わず声の方を振り返ってしまい、モロに左頬に大当たり。

鈍い音がして、ボールが転がった。

ナナは、驚くやら恥ずかしいやらで、慌てて子供たちにボールを返したが、真っ青な顔をして佐藤先生が飛んで来た。

「はやとくんママごめんなさい‼大丈夫ですか?」

「あ、はい。大丈夫です。ぼんやりしててすみませんでした。」

にっこりと笑顔で答えてみたが、頬がヒリヒリ痛む。

「いや、大丈夫ちゃうわ、、、あぁ、少し切れてもーてるわ…はやとくんママ、ちょっと来てください。」

佐藤先生は、有無を言わさぬ雰囲気で、ナナを一番近い空いている教室へ連れて行った。

「佐藤先生、本当にたいしたことないですから」

ナナが、恐縮していると、佐藤先生は、子供に諭すように、ナナの両肩を掴んで言った。

「ばい菌入ったらあかんやろ?」

そう言って、有無を言わさず、園児用の小さな椅子に座らせた。

ゴソゴソと救急箱の中を探す佐藤先生。

手際良く消毒液をコットンに含ませて、ナナの頬にそっと当てがう。

「っ!」思わず、顔が歪む。

「可哀想になぁ、ちょっとだけ我慢してなー」

ナナは、佐藤先生のその真剣な表情をつい、じぃっと見つめてしまっていた。

『近くで見るとやっぱり、45歳だなぁ。でも、歳相応の笑い皺ってのも案外素敵だな。』なんて。

旦那とだってこんな至近距離に顔を近づけて話すことなんてもう何年もない。

なんだか変に緊張しちゃう。

「もー!はやとくんママあかんて。そんな色っぽい表情したらぁ〜。襲われても文句言われへんで。」

「!?私?そんなっつもりはっ!」

ナナ真っ赤になってうつむいた。

「はっはっは!冗談ですやん。はやとくんママは、可愛らしいなぁ」

「佐藤先生!からかわないでください!!」

「いやいや、可愛らしいって言ったんは、本当ですよ」

一瞬、佐藤先生の顔が真剣になったのを、ナナは気が付かなかった。

佐藤先生は、ママたちにいつもそんなことばかり言って、楽しんでるんだ。

『大阪の人は、まるでイタリア人みたい。女性をあの手この手で喜ばせるのがまるで使命みたい。旦那とは、正反対だわ』

ナナは、まんまとドキドキさせられた自分が可笑しくなって、小さく笑った。

「はやとくんママ、今度、ごはん行きましょ?お詫びのしるし。」

ナナは、可笑しくてまた笑ってしまった。

そんな変なやり取りをしながら教室をでると、アシスタントの野口先生が、一人で必死になって子供たちと戯れている姿が見えた。

胸がキュンとなった。
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