dream〜other〜
□ヒドイ男
1ページ/2ページ
――とある港に停泊中のシリウス号。
少し緯度の高いこの街は、初秋とはいえひんやり肌寒くて。
そして夜にもなれば一段と寒さが増す。
こんな夜に
あなたは傍にいてくれない・・・。
**********
「うおっ、さっみぃ!今夜は冷えるなあ。」
船長室へ戻ってくるなり、言葉通りの冷えた空気を連れてきたリュウガ船長。
私はいつもの場所、赤い揺り椅子で読書をしながらその様子を見ていた。
「おかえりなさい。」
その一言だけを呟いて、また私は膝に乗せた本へと視線を落とす。
『早かったですね』と付け加えなかったのは、なんだか遠まわしに嫌味を言ってるみたいだったから。
それに・・・、
あなたを見ていたくなかったの。
『寒い』なんて嘘でしょう?
船長が連れてきたのは、冷たい空気だけじゃなくて・・・。
強いお酒の匂いと、
それ以上に香る女物の香水。
“そういうトコロ”に行ってたんだって、いくら鈍い私でもわかるよ。
アルコールと人肌に温められて、寒いはずなんてない。
・・・ああ、そうか。
“だから”、余計寒く感じられるのか。
私は胸元を緩めてベッドに倒れこんだリュウガ船長を見る。
チラリと、盗み見るように。
あなたは私の気も知らないで、大きなあくびをして大の字になって・・・。
『行かないで、私以外の女性(ひと)に触れないで』――なんて。
言えたら、どんなにラク。
言えないのは・・・――。
「あー・・・さみぃ。おら、○○、こっち来ておめぇも横になれ。」
「・・・もう!また人のこと湯たんぽ代わりにするんですか?」
「だってよぉ、おめぇ体温たけーから温いんだわ。」
これからの季節はおめぇに限るわ、なんて、まるで子ども扱い。
ヒドイ男にも程があるけど・・・。
「はぁーい、わかりました!」
それを拒めない情けない私も・・・、確かに存在する。
少しおどけて明るく振る舞って・・・。
ベッドに上がった私をリュウガ船長はその懐に迎え入れ・・・、
チクチクする胸の痛みを気づかないフリで、私はあなたに擦り寄る。
湯たんぽでも抱き枕でもいいの。
あなたの傍にいさせて・・・。
刹那的な束の間の幸せに浸りながら、私はあなたの胸で眠りに墜ちる――・・・・・・。
〜終わり〜