dream〜シン〜
□緩やかな灯(ともしび)
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「ったく、あの変態野郎。今度会ったらあのマヌケ面に風穴開けてやる。」
腰の丈ほどある草をかき分けて、道なき道をシンさんが唸りながら私の前を進んでいく。
今のシンさんはまるで不機嫌が服を着て歩いてるような感じで・・・。
というのも。
私達シリウス海賊団は、お宝が眠っているという無人島に降り立って手分けして在り処を探していたんだけど。
案の定というかなんというか・・・。
いつもの如くに現れたリカー号のロイ船長の罠に嵌って、私とシンさんは森の中に迷い込んでしまっていた。
そして日は暮れ、今ではどっぷり闇の中・・・。
そんな中――。
「そ、その前に、早くこの森から抜け出してみんなと合流しないと・・・」
前を歩いて道を作ってくれるシンさんから逸れまいと、必死でついて行きながら話しかける私は振り返った彼に冷ややかに見下ろされる。
そしておもむろに手が伸びてきて・・・。
「・・・ほほう、偉そうな口を聞くのはこの口か?」
むにーっと唇をつままれた。
「ふぐぐっ、ふぐぅぐふっ(訳:痛いっ、痛いですっ)!!」
つままれたことで唇が開かずうまく発音できない私に、なおもシンさんは畳み掛けてくる。
「誰のせいでこうなったと思ってる?なんで何回もあいつの手口に引っかかってるのに学習しないんだ?その頭の中には何が詰まってる?脳みそはどこへ置いてきた?」
「・・・返す言葉もございません。」
矢継ぎ早に責めたてられて、シュン・・・と項垂れる私を鼻で嗤って、
「ふん、まあいい。たしかにここから脱出しなければ話にならんからな。――行くぞ。」
チラリと冷ややかな一瞥を投げて寄越して、シンさんは再び歩を進めた。
そうしてしばらく歩き進めていると、私は突如足首にチクリ!と痛みが走るのを感じた。
「痛っ!」
「どうした?」
軽く悲鳴を上げた私に、シンさんが素早く反応して駆け寄って来てくれる。
「今、なんか足首に痛みが・・・」
「毒虫や蛇かもしれない、見せてみろ。」
そう言ってシンさんがランプを私の足首に翳して傷の具合を診てくれるけど、どうやら毒のある生物に噛まれたものではなかったらしく足元からホッとしたような安堵の声が上がった。
「うん、大丈夫そうだな。落ちていた枝で引っ掻いたらしい。」
灯りの中にぼんやり浮かぶ傷を見てみれば、足首にじんわりと滲み出た血が傷の在り処を教えてくれていた。
毒のある生物につけられた傷ではないとわかった私も、ホッとしたのはいいけど、
「すみません。・・・私、シンさんにご迷惑ばかりお掛けしてますよね。」
と、またもや自己嫌悪で項垂れた。
うん、そうなんだよね。
私ったら、またシンさんの足引っ張っちゃったんだよね。
けれど、想像していた彼からの罵倒はいつまでたってもなく、
「今に始まったことじゃねーだろ。――でもまあ消毒しておくに越した事はないから、どこかで一休みするか・・・歩けるか?」
と、逆に私を労わってくれるかのような言葉をかけてくれる。
辛辣な言葉で罵倒されたと思ったら、こうして優しく気遣ってくれる・・・。
シンさんはいつもそうして私の心を捕まえるの。
私は嬉しさと気恥ずかしさから小さく「はい」と答えるのが精いっぱいだったけど、シンさんは気にするでもなくごく自然な仕草で私の手を取ると再び歩き出した。
その繊細で綺麗な手に引かれて森の中を歩いていると――。
「シンさん、あれ・・・。」
私は前方に何やら建物らしきモノを見つけた。
暗がりだけど、眼はもう闇に慣れてるから間違いない。
「ああ、アズマヤだな。あそこにするか。」
シンさんの提案にコクンと頷くと、私達はアズマヤに辿り着いた。