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□星めぐり(シン)
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赤い目玉のサソリ
広げたワシの翼
青い目玉のコイヌ
光のヘビのとぐろ
ある夜のシリウス号のシンさんの部屋。
小さなあかり取りの窓。
そこからキラキラと輝く天の川を見上げながら、私は小さい頃に覚えた歌を歌っていた。
むかしむかしのすごい人が作ったんだってコトくらいしか知らないけど、とっても可愛い歌。
でも・・・。
「は〜あ、もっと近くで見たいのになあ。」
歌うのをやめて、私は、つまんない・・・と唇を尖らす。
『夜の甲板にひとりで出るな。』
もう耳にタコができそうなくらい、何回も何回もシンさんに言われた言葉。
うん、わかってるの。
急に大波がきて船が揺れたら、踏ん張りの効かない私なんか簡単に海に放り出されるだろうし・・・。
暗闇に紛れて敵の海賊船が来たら、真っ先に人質にされてみんなに迷惑かけるのは目に見えてる。
だからシンさんは心配して言ってくれてるって、ちゃんとわかってるけど・・・。
「こんなに綺麗なのに・・・。」
小さな窓にへばりつくようにして夜空を見ていると、背後で扉の開く音がしてシンさんが戻ってきた。
「・・・何をしている?」
その姿がよっぽど滑稽だったらしい。
シンさんは呆れたような、こバカにしてるような、そんな顔で私を見る。
「あ、おかえりなさい。えっと、星を見ていたんですけど・・・この窓からじゃこうしないと見えなくて・・・」
「いかにもアホっぽいぞ。」
バッサリと切り捨てられて、私は「うっ。」と言葉に詰まる。
「だって。こんなに天の川がはっきり見えて、こんなに綺麗なのに・・・」
シンさん、甲板に出ちゃダメって言うし・・・とぶつぶつともごもごと口の中で言った恨み節は、けれどしっかりと聞こえてしまったらしい。
「そんなに星が見たいのか。」
シンさんはため息交じりに呆れていたのだけど。
「来い。甲板へ出るぞ。」
「・・・へ?」
今戻ってきたばかりなのに身を翻して出て行こうとするシンさんに、私は間抜けな声を上げた。
「俺について来いと言っているんだ。――・・・一緒に、星をみてやってもいい。」
憮然として言ったシンさんは、でもちょっと照れくさそうで・・・。
「はいっ!!」
私は嬉しくて大きな声で返事をすると、大股で部屋を出て行く彼を追った。
オリオンは高く歌い
露と霜とを落とす
アンドロメダの雲は
サカナのくちの形
「おまえ、よくその歌を歌っているな?」
部屋を出て廊下を歩いていると、シンさんがそんなコトを口にした。
「はい。ヤマトのむかしのすごい人が作ったんだそうです。『星めぐりのうた』っていうんですよ!」
「星めぐりか・・・。いいな。」
「簡単なメロディなんで、すぐ覚えられますよ。教えますのでシンさんも歌ってください。」
「いやだ。」
「えーっ。」
せっかく教える気満々だったのに即答で拒否されて私は不満の声を漏らす。
シンさんに教えられることはあっても、教えることって滅多にないのに・・・。
すると、
「・・・わかったよ、歌う、歌えばいいんだろう?教えろ。」
うんざりしながらも、ほら、ちゃんとつき合ってくれる。
「はいっ!――まずは一番から・・・『あかーいめーだまーの・・・』」
そんなシンさんが、私はやっぱり大好きです。
こうして私達は『星めぐりのうた』を口ずさみながら甲板へと向かう。
本物の星めぐりをするために・・・。
あなたと・・・。
大グマの足を北に
五つのばしたところ
小グマのひたいの上は
空のめぐりのめあて
〜終わり〜