dream〜シン〜

□緩やかな灯(ともしび)
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天気が悪いわけではないけれど、やはり屋根があるというのはそれだけで少し安心できる。


シンさんは座らせた私の足首にアルコールを垂らして消毒をすると、スカーフを解いてそれで傷を覆ってくれた。

足首に巻かれたスカーフは、今の今までシンさんの首にあったもの。

彼の体温が残っていて、それを感じただけで急に体温が上がってしまう自分が恥ずかしい。


そしてそれはシンさんにも伝わってしまったみたいで・・・、

「おい、今なにを考えてる?こんな時によく発情できるモンだな。」

なんて意地悪く笑うから、私はもうこれ以上はないくらいに茹で上がってしまった。

そして、ひとしきり私をからかって満足したらしいシンさんが辺りを見渡す。

「今夜はひとまずココで休むか。動くのは日が昇ってからだ。・・・ヘンな気起こすなよ?」

「へ、へ、へへへンな・・・って・・・っ!!」

後半のシンさんの言葉に艶を含んだ意味があるのに気づいてしまった私は、ボンッと沸騰しそうなくらいに顔を赤くして、でもあまりの動揺に言葉が出てこなくてパクパクと口を動かすしかできなかった。


でも、あの、それって普通は男女立場が逆の時に使うんじゃ・・・?


また、いいようにからかわれた・・・とガックリと肩を落とした、その時だった。


私の視界の端にふわり、ふわり・・・と何かが点滅するのに気づき・・・。

その柔らかな光に誘われて顔を上げると、そこには懐かしい光が・・・。

「!!シンさん・・・あれ見て!」

「なんだ、騒々し・・・・・・」

私のはしゃぎっぷりに辟易とした顔つきで、でも言われるがままに私の指さした方向を見たシンさんは、途中で言葉を失った。


私達の視線の先――。

漆黒の暗闇の中にぼんやりといくつものちいさな光が灯り、灯っては消え、ゆるやかに宙を彷徨う・・・。


そしてそれが何なのか、私にはわかってしまった。

「あれは・・・?」

無数の光が緩やかな点滅を繰り返す幻想的な空間で、シンさんがぽつりと問うてくる。

「蛍です。シンさん、ご存知ないんですか?」

「いや・・・、知識としては頭に入っていたが、実際に見たのは初めてだ。――キレイだな。」

ほう・・・とため息交じりのその感想、それが彼の心からのものだとわかる。

そうして私は昔、子どもの頃に故郷で見た光景を思い出す。

「ヤマトの夏の風物詩で、夏の初めになるとよく見かけました。・・・懐かしいなあ・・・。」

「おまえの故郷というのは美しいもので溢れているんだな。話を聞くたびにいつもそう思う。」

シンさんの感想に、内心私は驚いていた。

いつもうるさいくらいに私ばかりがシンさんに話しかけて。

その中にはもちろんヤマトのことも入っていて・・・でもシンさんは聞いているのかいないのか、いつもめんどくさそうにしていたから。


シンさん、私の話、ちゃんと聞いていてくれたんだ・・・。


そう思うと、今更ながら嬉しくなった。

そして嬉しくなったついでに、実際に蛍を見たのは今回が初めてだと言う彼に、私は蛍の豆知識を披露した。

「知ってました?シンさん。蛍が光るのは求愛の意味があるって。こうして夜毎に光を放って、どこかにいる恋人を探してるんですって。」

どうだ!とばかりに意気揚々とシンさんを見上げた私は、直後、彼の妖艶な光を宿した片眼に捕えられることとなる。

「くっ、それは遠まわしに誘っているのか?」

最初、シンさんが何を言っているのか理解できていなかった私だけど・・・。

「っ!?だからっ、なんでそういうふうに取るんですか?」


なんでそういう展開になるの?


意味を知った途端、私の心拍数は急上昇した。


「遠慮するなよ。たまにはこういうのも刺激的でいい。」

ニヤリと不敵な笑みを浮かべながらシンさんに迫られて、私は思わず後ずさるけど。

この笑みを浮かべるときのシンさんは頭に思い描いてることを絶対に決行するって、私は今までの経験で知ってしまっているから・・・。

「あ、で、でもっ、ほ、蛍が・・・見てます、・・・よ?」

私はしどろもどろで打開策を探すけど、シンさんに頭でも口でも勝てるはずがなく。

「アホ、蛍にそんな知能あるか。それに、アイツらだって自分達の求愛で必死だ。俺達なんかに興味あるかよ。」

「でででもっ、体力は温存しておかないと、・・・ってシンさん!?」


明日だって、みんなと合流できるまでどれだけ歩かなきゃいけないかわからないのに・・・っ!!


私の小言など右から左・・・で、彼は前を緩めたブラウスの襟元から首筋に唇を寄せてきた。

「ぁんんっ、・・・シンさ、っんっ!!」

鎖骨のくぼみを強く吸われて、知り尽くした彼の匂いに包まれ狂わされていく。

「立てなくなったらおぶってやるさ。だから――・・・」


だから――・・・。


シンさんがそのあと何を言いたかったのか・・・。

続きはキスで掻き消され、辺りには二人分の熱い吐息と衣擦れの音が響き始めた。






月も出てない真っ暗な夜に始められてしまった、私とシンさんの求愛。



無数に光る蛍たちに照らされて、私は彼を受け入れるのだった。



〜終わり〜



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