dream〜シン〜
□最愛の君へ贈る(中編)〜シンVer.〜
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◇◇◇◇◇
俺は○○の部屋の前に立ち、ドアを4回ノックする。
すると、「誰だい?」と中からファジーの声がしてドアが開いた。
「あ・・・シンさま!!どうしたんです?」
俺の姿を確認したファジーが、ふくふくとした顔をポッと赤らめながら、モジモジと忙しなくスカートをいじって問うてくる。
・・・ファジー、帰ってきていたのか。
まだ買出しから戻ってきていないだろうと踏んでいたファジーがいたことに、俺は多少気まずい気分になる。
こいつがいつも以上に俺の前でモジモジしているのは、どうやらさきほどの口論を聞いてしまったから・・・なのだろう。
壁の薄い安宿だ。
ただでさえ隣室の物音が漏れ聞えるだろうに、あれだけ罵声怒声が飛び交えば、聞きたくなくても耳に入るだろう。
けれど俺は何もなかったかのように装って、ファジーに中にいるであろう○○に話がある旨を伝えると、彼女はびっくりしたように、
「○○なら戻ってきてませんけど・・・。」
という意外な返事が返ってくる。
あんな激しい口論をしたあとだ、あいつに居留守を使われているのか、とも思い、ファジーを押しのけて部屋に入ってあいつの姿を探すが見当たらなかった。
あいつ、部屋に戻らなかったのか・・・?一体どこへ行ったんだ?
何故だか嫌な予感がして、俺が探しに行こうと動いたそのときだった。
「シン、いる!?」
バタバタとけたたましい足音が聞こえてきたかと思うと、ナナがドレスの裾を蹴りながら宿の階段を駆け上がってきた。
「ナナ?」
どうしたんだ?と口を開きかけた先に、
「シン!○○さんは?」
と逆に尋ねられた。
「さっきまではいたんだが・・・。」
その剣幕に気圧されながらも答えてやると、「やっぱり・・・」、とつぶやいたナナが唇をかみ締める。
そして息を整えながら俺を見上げてきて、
「シン、なんだか嫌な予感がするの。○○さんが危ないかも・・・っ!」
「・・・?どういうことだ?」
ナナの言葉が咄嗟には理解できず、俺は思わず聞き返す。
「さっき彼女に似た女の子を街で見かけたの。私、女将さんに頼まれてお使いに出たのよ。その女の子、覚束ない足取りで歩いてて・・・。でも○○さんだって確信したから呼び止めたんだけど、気づいてなくて。そのうち見失ってしまって・・・。」
「ナナ、それは本当か?」
俺の問いに「間違いないわ。」とナナが頷く。
「あの子は○○さんよ!!――シン、急ぎましょう?彼女の歩いていった方向には、悪名高い人買いグループがいるって話よ。もし運悪く○○さんが攫われでもしたら…」
「奴隷市か娼館か…ってとこか。」
「船長!」
ここにいないはずの人物の声が降ってきて、いつの間にか船長が険しい顔つきで立っていた。
「ちょっとっ、それってマズいんじゃ……?」
さっきとは打って変わって青ざめたファジーの言葉に、ナナも苦悩の表情を浮べた。
「早く探しに行きましょう?あの先はあこぎな商売をしてる人間の巣窟よ・・・!」
「くっそ、あのバカ!」
ナナの言葉に、我を忘れそうになって寸でのところで留まったが、俺はそう吐き捨てて宿を飛び出した。
無事でいろ、○○。
取り戻すさ、必ず・・・。
俺は心にそう誓った。