七不思議

□01 怠惰は猫の罪
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「お、猫じゃん!お前どうやって校舎の中まで入ったんだよい」

猫じゃらし代わりにキーホルダーを揺らす丸井に仁王は怒りのまま拳をくれてやった。

「おっ、人懐っこいなぁ〜」

ただし丸井には上手く怒りが伝わらなかったようだ。
それも仕方がない。仁王は何故か猫になってしまっているのだから。
殴りかかったところで猫がじゃれついているようにしか見えないのだろう。

『なんで猫なんじゃ、意味わからん』

文句を言おうにも、空気を振動させるのはにゃあにゃあと、どこか間の抜けた弱々しい猫の鳴き声だけだ。

あまりに不可解な状況に、仁王は取り乱すよりも呆れ果ててしまっていた。
部活が休みになったので、七不思議探索と銘打って校舎をぶらついていたのだ。
もちろん告白スポットの木には悪霊がいるだとか、階段が増えるだとか本気で信じていたわけではない。
単に暇を持てあましていたのだ。

それなのに、これはどういうことだ。
仁王は今や肉球のくっついた前足で頭を抱えた。ふかふかだった。

『万一これが七不思議の呪いなら、なんで丸井は無事なんじゃ』

立海大付属中学のちょっと毛色の変わった七不思議には、“放課後目的もなく校舎にいると猫になる”という馬鹿げたものがあった。
いくら馬鹿馬鹿しいといっても、実際仁王は猫になり果ててしまっている。

「つーか、仁王マジでどこいったんだよぃ。電話もでねぇし、勝手に帰りやがったか?」

携帯を弄りながら背を向け歩きだす丸井に、仁王は反射的に飛びついた。

「うぉ、なんだよい!?」

親は帰りが遅い上、姉が猫アレルギーな自宅へは帰れない。いつ元に戻るかもわからない以上野宿も勘弁してほしい。
そもそも、七不思議なんて意味のわからないものに巻き込んだのは丸井だろうと、八つ当たりぎみの思考でその足にしがみついた。

「おいおい、爪立てんなって。猫が食えるようなもんは持ってねぇよぃ」

軽々しく子猫を摘みあげて丸井は言う。
当然ながら、子猫が仁王だとは夢にも思っていないようだ。

『薄情な奴じゃ、俺がおらんくなっても心配するどころか、さっさと帰るつもりか』

「あーもう鳴くなって、持ってねぇの!」

仁王を下ろして、丸井は嗜めるように言う。
猫と人間では当然のことながら会話にならなかった。

『待つんじゃ丸井、俺が野垂れ死んだら祟ってやるぜよ!』

歩きだした丸井を仁王は追う。
仁王が猫になっているなどと、ただでさえ信じられない状況で気付く可能性があるとしたら、直前まで七不思議の話をしていた丸井だろう。
そのあまりにも微かな可能性にかけて、仁王は短くなってしまった足を懸命に動かした。


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