七不思議
□01 怠惰は猫の罪
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「ブン太〜、今帰り?」
振り返りもせず進む足を追いかけて公園を抜けた仁王は、その声を聞いて反射的に立ち止まった。
耳に心地よいその声につられて見上げると、予想通りの人物がそこにいた。
「おっ、名無しさんじゃん」
清潔感のある癖のないストレートの髪をなびかせて丸井に駆け寄ったのは、2人のクラスメートである名無しの名無しさんだ。
買い物帰りらしくスーパーの袋を下げてはいたが、きちんとアイロンの当たったシャツと糊の効いたスカートには所帯染みたところはない。
「今日は部活ないの?」
「おう、なんか急にコート整備することになったらしいぜぃ」
暑さに負けたのか、軽くネクタイを緩めた姿が新鮮だった。
「へぇ〜そうなんだ。あ、そうだ。このシリーズ知ってる?なんか期間限定でマンゴー味が出たらしくって買ってみたんだけど…食べる?」
「マジかよ、やりぃ!食う食う!!
学校の外で会っても、こんな親しげなのかと余計な事を考えていたせいで出遅れた。
慌てて仁王が2人を追うと、仲良く公園のベンチに腰掛けて鮮やかな色のパッケージを覗き込んでいた。
どうやら中にグミが入っていたらしく、丸井は手の中に分け与えられたそれに目を輝かせている。
『甘いモンばっか、よう食う奴じゃ』
「あっ、子猫!」
呆れながらも近づいた仁王を見つけて、名無しさんは嬉しそうにそう言った。
「あぁ、そいつ学校からずっとついて来んだぜぃ」
「え〜いいなぁ」
本気で羨ましいらしく、お菓子のパッケージを丸井に押しつけて名無しさんはベンチを降りる。
「白くて美人だね。ブン太より私の所においで〜」
視線を合わせるように膝をついて、呼びかける。
仁王自身が向けられたこともないような、満面の笑みだった。
「そうそう、こっちこっち」
つい、ふらふらと近づいた仁王に名無しさんは更に笑みを深めて呼びかける。
丸井が勝手に残りのグミを食べているのにも気付かない、完全な2人の世界だった。
『んなっ!?』
掌にすり寄った仁王を抱き上げて、名無しさんは頬にキスを落とした。
「おいおい、野良にキスなんかすんなよ。どんなバイキン持ってるかわかんねぇだろぃ?」
『馬鹿言うんじゃなか!虫歯持ちの丸井よか、よっぽどマシじゃ』
毛を逆立てる仁王を抱え直して、名無しさんは笑う。
「も〜、ブン太がそんなこと言うから怒ってるよ?」
「猫に言葉なんかわかんねぇって」