お題

□欠陥人間なんかじゃないよ
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気が付けば、頬を涙が伝っていた。



――思い出した。全て。



今までずっと忘れていた。

あんなにも愛おしい温もりを。不器用だけど優しかった言葉を。

大好きな淳生お兄ちゃんの事を。

辛い過去を消し去りたいばかりに、私の心が壊れないように包んでくれた彼の存在まで同時に消してしまうなんて、私は何て事をしてしまったんだ。

お兄ちゃんの存在を『救い』や『希望』だと認めてしまえば、母を悪と定め、憎まなければいけなくなると思い、ずっと怖かった。

けど、春日居さんは何も語らず、現実から逃げたそんな卑怯で罪深い私をずっと見守ってくれていた。



私を閉じ込めた目的はないだなんて、本当は嘘なんでしょう……?



保身に走った愚かな私の代わりに母を憎んで、彼は隠された真実を告げずに自分だけを悪役にするつもりだ。

春日居さんの中では、九年前から時間は止まったままで、変わらずずっと私を守ろうとしてくれている。

私がどんなにひどい態度を取っても、こんな写真一枚だけを支えにしてきたんだ。

もう一枚の家族写真も、春日居さんに直接関係のある物だろう。


私には分かる。

きっと、これだけは、どうしても捨てられなかったんだ。
彼ばかり私の事を知っていて、彼の事情については何も知らない私だけど、手に取るように分かる。



彼は、欠陥人間なんかじゃない。



寧ろ、溢れるような優しさや思いやりを私にも分けあたえて教えてくれた人。


「一緒に暮らしたい」……私から言い出したあの時の約束をこんな形で果たしていたなんて。


淳生お兄ちゃんに会いたい。


我ながら、今更虫がいいけれど。


謝りたい。私の気持ちをちゃんと伝えたい。

私も彼の抱えている物を知りたい。

もう、逃げないから。

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