お題

□なんで泣いてるの?(愛がわかった証拠だよ)
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「いずれ、淳生君には、うちの家業を継いで欲しいと考えているの」



食事の席でいきなり世津子がそんな発言をした。


やっと覚えてきたテーブルマナーを意識するのに必死で、最初彼女が何を言っているのか淳生は飲み込めなかった。

今日は間違えずに右手にナイフと左手にフォークを握り、そのまま静止する淳生をどう受け取ったのか、婿養子である世津子の夫、立花幹夫(みきお)は苦笑してフォローに回る。



「些か急過ぎたんじゃないか、世津子さん」

「そうね、ごめんなさい淳生君」

「いえ、」

「……順を追って話すわ。まず、うちの家業については淳生君も薄々気が付いてはいるかしら。うちは代々、警察組織とも懇意にさせて頂いているから、ある程度の非合法的な行為については目をつぶってもらっているのよ」



世津子の言う家業とは、世間一般には知られていない、立花家の“裏の家業”だろう。

実際に取引を行っている場面を、淳生は何度か目にした事があった。


【情報】という形のない品物を、紙に記して売る場面を。


様々な事業に手を延ばす立花家は、顔が広く、望んだ情報を自由に仕入れられる。

そのため、強欲な先代は健全な商売だけじゃなく裏社会にまで事業を拡大したという。

結果、表と裏、どちらにも立花家の名を轟かせる事となったのだ。


……それだけの情報網を有しながら、何故、どこぞの馬の骨と駆け落ちした一族の女一人を見つけられなかったのか。

結局、親族の中で本当に心配していたのは、世津子だけだったようだ。

淳生の性別が男である事をすごく喜んでいた、初めて会った祖父母の姿が淳生の脳裏に浮かぶ。



「すみません、俺には……」

「いますぐ答えを出せとは言わないわ。ゆっくり検討してちょうだい」

「……」

「結局、私と幹夫さんの間には子供は出来なかったけど、淳生君の事は本当の我が子と同じくらい大事に思っているの。だから、立花家の築き上げたものを貴方に受け継いでもらいたいの」



いい返事を期待してるわね。と、世津子は少し切なそうに笑った。


××××



「お兄ちゃん、パンに入ってるこれ、なぁに」

「白餡」

「しろ?すごい、あんこって黒だけじゃないんだねっ」

「美味しい?」

「……ん、おいしいっ」

「よく噛まないと、喉につまるよ」



もぐもぐとあんぱんを頬張る菜摘の頭を撫で、淳生は今朝の世津子の話を思い出していた。


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