お題
□これから憶えていけばいい
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そこは、何の変哲もない喫茶店。
いつも、客足の少なくなる深夜を見計らって“取引”を行っていた。
扉を押し開くと、来客を知らせる鈴の音が店内に鳴り響く。
入口から見て、一番奥の右端の席に、金髪短髪の男が座ってアイスコーヒーを飲んでいる事を確認する。
少年と表現しても間違いない若者だ。
サングラスで目元を隠していても、分かる。一歩外に出れば補導されてもおかしくないくらいに若い。正確な年齢は淳生も知らないが、恐らく、まだ十代半ばだろう。
他に客はいないようだ。
近寄ってきた女性の店員に待ち合わせだと言葉少なに伝え、ついでにホットコーヒーを注文した。
「よお、淳生。三十分の遅刻だぜ。何処で道草を食ってたんだ」
少年の正面に腰を下ろすと、真っ先にそう言われた。
あえて言い訳はしない。
元々淳生は口下手だし、少年には人の揚げ足を取って楽しむ悪癖があるから、何を言われても黙殺するに限ると、長い付き合いの中で自然と学んだ事。
ただ、遅れてきたのは確かに自分が悪いので、一言「ごめん」とだけ謝った。
すぐに、淳生の分の水とおしぼり、それにコーヒーが運ばれてきた。
その後、いつものように店員の女性はすぐ裏へと引っ込んだ。
余計な事に首を突っ込まず、自分に被害が及ばないように動ける賢い女性だと、密かに淳生は彼女を評価していた。
「早速だが、例の件はどうなった?」
無邪気に微笑みながらの少年の催促に、淳生は一度だけこくりと頷いた。
鞄から十枚程の紙の束を取り出し、机の上に置く。
一番上の紙には、セーラー服に身を包んだ清純な雰囲気の少女の隠し撮り写真が貼付けてある。
「いつもすまねぇな。支払いは三日後、いつもの口座に振り込んどく」
「こんな女の子の事を調べてどうする気?」
その娘(こ)は、菜摘より一つ年下の中学生の女の子だった。
大富豪の家の令嬢で不自由なく暮らしているが、気取っていなくて、とても優しい娘らしい。
どちらかと言えば気の強い菜摘とは逆の、大人しい性格のようだが、同じ年頃だというだけの共通点が、生まれも育ちも全く違う二人をだぶらせて見せた。
いけしゃあしゃあと言えた口ではないが、やや尋問するように言えば、少年は「仕事に対して個人的な好奇心を持ち出すのは止めろ」と一蹴した。
「お前は情報を売るだけでいい。余計な詮索は慎め。お前らしくもねぇ」
「……」
「大体、俺が情報を買うのがどういう事かくらい知ってんだろーが。まぁ、この娘自身には何の罪もないさ。ただ、親があれだけエグい事してりゃあ、俺みたいのが雇われて、とばっちりを喰らっちまうって訳だ。俺もお前もそういうのに付け込んで生計立ててんだから、疑問を感じたらお終いだぜ」
「……」
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