お題

□変わらない表情
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嘘みたいな豪邸だ。

外観は勿論、内装も。
天井からぶら下がるシャンデリアに、飾られた絵画や壷、全て価値の高そうなものばかりだ。


踏み慣れないカーペットと座り慣れないソファーに度々腰を浮かせながら、春日居淳生は目の前の綺麗な女性を見た。



「淳生君、これからはここが自分の家だと思って構わないんだからね」



頭の中で、家賃一ヶ月三万円のあのボロアパートと比較して、その差に圧倒されつつも曖昧に頷くと、母の姉と名乗る女性は安心したように微笑んだ。


彼女の名は、立花世津子(せつこ)。


状況が飲み込めない淳生に、妹である母をずっと捜していたのだと、涙ながらに彼女は語った。


世津子曰く、母は駆け落ちをして淳生を産んだ。


元々母は有名な資産家の娘で、あの暴力男はトラックの運転手をしていたらしい。

全く共通点のない二人の出会いは、道端で足をくじいて動けなかった母を偶然通り掛かったあの男が助けたからとか。


まるで、三流の恋愛ドラマのようだ。


無論、二人の交際を母の両親は猛反対した。


その結果、母は実家の金庫から大金を持ち出し、駆け落ちという強行へ至った。


にわかには信じ難いが、駆け落ちとともに後ろ盾と職を失い、母が実家からくすねた金でなんとか生活していたのだと考えれば、淳生がつくづく疑問に思っていたあの貯金についても説明がつく。



「今まで辛かったわね。もう安心していいのよ、おばさんがついてるからね」



これにも淳生は頷く事しか出来なかった。表情を変えず、眉一つ動かさずに。


世津子が母を見つけた時には既に手遅れだった。


母は、夫を殺した。


駆け落ちする程好きだったはずの男を、包丁で刺殺した。

詳細はまだ不明だが、警察の取り調べに対しては素直に従っているらしい。


通報したのは、淳生だった。


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