お題
□変わらない表情
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そして。
警察で保護されていた淳生を引き取りたいと申し出たのが、世津子である。
彼女の一族は警察と何らかの繋がりがある。……と淳生は推測する。署長であろう人物と親しげに話している姿が印象深かった。
話を聞く限り、世津子は妹とは違い、親の決めた相手と幸せな家庭を築いているようだ。
その中に自分のような異物が混ざるのは抵抗があった。
淳生にとって伯母にあたる人物とはいえ、昨日まで存在すら知らなかった他人とこれから――最低でも中学を卒業するまでは衣食住を共にしないといけない上に、明日、祖父母に会う予定を勝手に組まれた淳生は、憂鬱な気分で立ち上がった。
「……少し、外を歩いてきます」
世津子が不安そうな顔をしたが、今朝会ったばかりの女性にそんな顔をされても意思はぶれない。
「傷は、大丈夫なの?」
ああ、そういえば、顔にまだ痣が残ってたっけ。
警察署で身体検査もされたから、古傷の存在も聞いているのかもしれない。
淳生は俯くみたいに他人行儀な会釈をして、記憶を頼りに玄関に向かった。
××××
淳生の心中とは裏腹に、外は清々しいくらいに晴れていた。
馬鹿でかい迷路のような庭園をなんとか抜け、近くにあった庶民的な公園のブランコに座った。こういう硬い感触の方がまだ落ち着く。
場所が悪いのか、昼間なのに公園内は閑散としていた。
子供が二人、砂場で真剣に城らしきものを建設しているだけで、他に人気はない。
「頭、痛い……」
ここで、ようやく本音が出せた。
片手で額を覆い、鈍痛を堪える。
もう嫌だ。何もかも。
きっと自分は、心が壊れてしまったのだ。
さっきから何も感じられない。
今までどうやって喜怒哀楽を表現していたのか必死に思い出そうとしても、電源が落ちてしまったみたいに途中で頭が真っ白になってしまうのだ。
それでも酷使した結果、わかりやすい危険信号として強烈な頭痛が淳生は苛んだ。
親が、母があんな事になってしまったのに……何故俺は、何も感じず、平然としていられるんだ。
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