お題

□欠落した感情
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所持品を取り上げられ、目隠しと拘束を施され、口にはさるぐつわを付けられた。

一応手首を捻ってはみたが、後ろ手にしっかりと荒縄で結ばれ、抜けられそうにない。足首の拘束も同様だ。


壁にもたれかかるように座らされ、ここがどこであるかを知る術を持たない私はただそこで物思いに耽るしかなかった。



確か、一時間ぐらい前。これじゃあ時間の流れる感覚なんて何となくしかないけど。

……そこは、丁度人通りの少ない道だった。

背後から急に紙袋のような物をかぶせられ、ろくに抵抗も出来ないまま担がれ、多分、車の中に押し込まれたんだと思う。独特の匂いに背中に硬い弾力を感じた。

そして、暴れる私を力で押さえ付け、車内で身体の自由を奪われたのだ。

暴力を振るわれる事はなかったけれど、無言の内に淡々と行われる行為に恐怖を感じた私はそれでも懸命に叫んだ。



「やめて!私をどうする気?!やめて!!誰かっ、助けて、助けてください!!」

「…………」



それを全く意に介さず、まるで見付かっても構わないとでも言うように作業は進められ、最後にさるぐつわをはめられた私は無抵抗な芋虫のような存在へと成り果てた。


よっぽど興奮していたらしい荒い息づかいが耳元で聞こえ、身を固くする。

その力強さと布越しに触れる感触から、犯人は男で間違いない。


私を捕まえた目的は“そういう事”かと察した私は、絶望で泣きじゃくるしか出来なかった。肩を震わせ、目にあたる布を濡らし、嗚咽を漏らした。


犯人はそんな私をどう思ったのか。


予想に反していっこうに私に触れようとしなかった。


ドアの開閉音が間を置いて二回したかと思うと、けたたましいエンジン音が響いた。



そしてこの部屋に連れ込まれたのだ。

車から出されてからも私は自分の足で歩く事を許されず、始終彼に担がれて移動した。

途中、階段を上っているかのような振動を感じたのを覚えている。


車から下りてこの部屋に閉じ込められるまでの間、誰かに目撃されていてもおかしくないと思う。

『制服姿の縛られた女子を運ぶ男』というただならぬ光景を目にした人が、もしかしたら警察に通報してくれたかもしれない。


その可能性を見出だした私は、ただ一つ自由な聴覚を研ぎ澄ませ、極力犯人を刺激しないように努める事にした。


出し抜くなんて、出来る訳がないもの。


同じ部屋の中には、私を誘拐した男がいる。


呼吸の音と、時々布の擦れる音がする。

男は私に手を出すような事はやはりしなかった。

もしかしたら、この状態がずっと続くのではないかという錯覚すら覚え、いつしか泣き止んだ私は怯えながらもこの部屋に連れ込まれた直後と比べて幾分か落ち着いてきていた。


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