短篇

□あの娘と『彼』のその後
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※本作品は『あの娘と関わると不幸になるぞ』の続編です。





「いい加減帰らないと……」



学校に遅れちゃう。と、困ったように言うが、《彼》は聞き入れるどころか、その拘束を更に強固なものにして私を困らせた。

背後から不満げに「うー」と唸る声がする。

背中にあたる毛が逆立ち、胸の下に回る腕に力が入る。


あ、また怒ってるな。


それから私に出来る事は一つ。


それは、短気な《彼》の機嫌取り……なんかじゃない。



「もぅっ、怒らないの」



毛むくじゃらの腕を撫でながらなんとか宥め、坐り心地が良いとは言えない獣人の膝の上で私は途方に暮れた。


私に出来る事、それは――《彼》の躾だ。


躾、なんて表現は不適切かもしれない。《彼》は確かに犬っぽいけど。

でも、私と関わった人に理不尽な被害を加えるような事だけは止めさせないといけない。


《彼》は人間の言葉が理解出来る。

喋る事こそ出来ないが、日本語の読み書きも可能だ。

一般常識が欠如しているだけで、意思の疎通は十分にとれた。


そもそも、《彼》は何者なのか?

という疑問に関しては、《彼》の左手首に彫られた『QX-510』という、製造番号に思えなくもない謎の数字を見つけた事で解決した気がする。


……ここ数日、死体を見ないから、むやみに生き物を傷付けたり殺したりするのはいけない事だと教える事には何とか成功したみたいだけど、そうしたところで、今まで犠牲になった人や貢ぎ物になった動物が生き返る訳ではない。

けど、これが私の、せめてもの償いだった。《彼》に愛されてしまった、私の。



「……あのね、相手の気持ちを考えてあげる事も大事なんだよ」



首だけ後ろに向けると、後ろに倒れていた三角の耳を、シュン、と萎れるように横に垂らした大型犬がいた。

筋肉隆々とした逞しい外見に似合わない「キューン」と甘ったるい声が頭上から聞こえる。

ちょっと可愛いかも……。

私のどんな一言一句にも全て反応する《彼》

どうして私なんかに好意を寄せてくれているのだろう。

“相手の気持ちを考えてあげる”のは、私にも言えた事かもしれない。


腕をやんわりと押し退け、くるっ、と体をひっくり返して、《彼》と向かい合う。

くりくりとした瞳を見つめ返すと、嬉しそうに口角を上げ、舌を出す。……犬とは目を合わせてはいけないとよく訊くが、やはり《彼》は違うらしい。

なんだか妙に照れ臭くて、俯いたまま私は。



「……学校が終わったら、絶対にまた来るから。待ってて」



直後。

ぎゅーーと音がしそうなくらい、抱きしめられた。


湿った鼻先を押し付け、《彼》の豊かな尻尾が何度も地面を叩く。

独特の獣の臭いが少し気になるけど、温かくて柔らかい体毛に安心すると同時に。


結局、遅刻だな。


と、確信した。



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すいません。
まだ続きます^_^;

続きはイメージが固まりしだい、早急に(+_+)

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