本編

□番外編
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番外編
負け戦はしない主義



嘉帆が生徒会に就任すると風の便りに聞いた。

かと思えば、その二日後には全校朝会にて正式に発表された。

堂々と壇上に立つ紅雄の横で、恥ずかしそうに嘉帆が俯いている。

彼女は、部活動に専念するために退任した木賀薫の後任として書記に就くようだ。

心なしかいつもより言葉数の多い紅雄は一般生徒から見れば普段通りの不機嫌に映るだろうが、それなりに付き合いの長い者が見ればすぐ分かるくらい上機嫌なうえ、肌の色艶も良い。

中等部でも一時紅雄の憔悴が話題になっていたが、すっかり元通り回復したようだ。

心配していたから安心した。
これ以上紅雄の体調不良が続くようだったら、自分も声をかけて見ようかと思っていたから。

学園に存在する十名の純血の内の一人である風駆は、一般生徒の中に混じりやや後列で壇上の紅雄を見上げていた。

露骨な特別扱いで悪目立ちする事を極端に嫌うため、一般生徒とほぼ同等に扱われている風駆と違い、紅雄は学園側から破格の待遇を受けている。それ故、多少の無茶も許容されているのだが、妖怪の支援施設である学園の生徒会に人間を入れるとは……。

――でも、これで余計に誰も手を出せなくなったという訳か。

変に期待するより、とっくに風駆は自分が手を伸ばしても無駄だと理解していたが。

密かに憧れるぐらいなら、許されるだろう。

相変わらず可愛いなぁ。と、紅雄から視線を外して嘉帆の姿を角膜に焼き付けるみたいにじっと見つめていると、不意に目が合った。

どうしていいか分からず硬直する風駆に向かって嘉帆は、控えめに微笑んだ……気がした。

ここで愛想笑いの一つでも出来れば上出来だったのだが、目が合って彼女が微笑みかけてきたほんの二秒くらいの間、風駆はただ呆然と立ち続けていた。

あの中庭の件以来嘉帆とは接触していないが、彼女の笑みが風駆の都合の良い幻覚などではなければ、また話しかけてもいいだろうか……?

期待はしていないはずなのに、妙に浮かれてしまっている自分がいた。


××××



「風駆様って嘉帆ちゃんの事好きなの?」

昼休み。

食堂の二人掛けの席で一人寂しくうどんを啜っていた風駆の向かいの席に「ここ空いてんならいいよね」と、返事が来るより早く無遠慮に海藤みづ梨は腰を下ろした。彼女の持つトレイにはカツ丼が乗っている。

みづ梨は面倒見が良い。風駆のような内向的なタイプは特に気にかかるようだった。

それから、一方的に喋るみづ梨に必死に相槌を打っていたが、急に話題は嘉帆の事に。

……『好き』というのは恋愛的な……生々しく言うなら性欲的な好きか。何て考えてしまう自分が、はしたない。

「そ、そう、見えます、か?」

「んー……だって、今日の朝会、嘉帆ちゃんと目が合った時すごい嬉しそうだったじゃない」

「です、かね、」

「うん」

良く見ているな。と素直に感心した。

普段からそんなふうにみづ梨や要達が目を光らせていたら、嘉帆にちょっかいを出す輩もいないだろう……。


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