本編
□閑話
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第十九話
夢
男性だった。
映画の演出みたいに不自然に顔だけにモヤがかかっていて、それ以上の識別は不可能だ。
けれど、寝転んで下から見上げるような視点から分かる喉仏と広い肩幅、なにより、頬を撫で続ける硬い手は男性で間違いなかった。
『――、……ッ』
彼は、必死に何かを伝えようとしていた。
彼の紡ぐ言葉は、全て解読不能の雑音に変換されて嘉帆の耳に届いた。
それでも、そこに含まれた悲痛な響きだけは不思議と理解出来た。
『……!っ――』
手の平から伝わる体温はぬるく、少し、震えているようだった。
彼が、無性に愛おしかった。
この体さえ自由に動けば、彼を抱きしめていたかもしれない。
それが出来ない自分は、せめて、これで良かったんだと安心させるように微笑んで見せた。
彼の体が一層わなないた。
上半身を抱き起こされ、きつく抱きしめられた。
どんなに力を込められてもあるのは圧迫感だけで、既に痛みは感じなくなっていた。
そして、とうとう瞼が重くなってきた。
徐々に自分の置かれている状況が分かるにつれ、急激に生気が衰えていく。
『……!……!!』
嗚呼、どうか悲しまないで。
ごめんなさい。結局、最期まで彼の気持ちを汲んであげる事は出来なかった。
それでも――。
『ずっと、ずっと……お慕い申しておりました――“おぼろ”様』
『――……ッ
さくら!!』
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