本編
□二章
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特別公務員と紅雄に板挟みにされ、どうしようもなく困却する。
それは今の嘉帆の表情にもよく表れていて、眉尻は下がって瞳は若干潤みを帯びていた。
堪えるように強く拳を握る。
――その時だった。
不意に、突風が吹き荒れた。
頭上の枝や葉が擦れて揺れ、轟々と音を立てる。
先程まで考えていた事を暴風により吹き飛ばされ、嘉帆は当惑しつつも咄嗟に俯き、乱れる髪を押さえた。ゴミが入らないようギュッと目も閉じる。
暫くすると、耳元で鳴り響いていた風の通り過ぎる音が止んだ。
次に目を開けた時。
先程までそこにいなかった人物が目の前がいた。
彼の痩身を包む制服は中等部男子のものだ。
リボンタイの色は赤。嘉帆と同じ。つまり、『一年』を示す。
中等部一年――十二、十三歳にしてはやや背が高い。
「……っ」
急に眼前に現れた異性に驚倒するあまり容姿を完璧に認識する余裕の無い嘉帆は、到来学園の制服を纏った妖怪の血族に対して警戒心を露にして立ち上がった。
冷静になれば“どこかで見た事のある顔”だと分かるというのに。
「……小野田、先輩」
男子生徒の口からぼそぼそと小さく紡がれた言葉は、嘉帆の耳には届かなかった。
怠惰を思わせる程緩慢な動きで彼は身の縮こまった嘉帆へと近寄る。
思わず一歩後退る嘉帆。
「先輩、あの、は、初め……ましてっ」
どもりながらの発言だが、正気自体は保っていると判断出来た嘉帆は警戒心を緩め、控えめに首を傾げた。
その仕種から、疑問や言わんとしている事を理解したのか、男子生徒は。
「お、俺……」
しきりに長い前髪をいじりながら恐る恐る、しかし、しっかりと言った。
「中等部の風駆と言います。鎌鼬の妖怪の純血、です」
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