お題
□変わらない表情
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何も感じない体になりたいと、願っていた。
でも、“こんな結末”を、望んでいたんじゃない。
これは罰なのか。
抵抗を知らない母の苦痛の重さを理解しながらも、隅っこで縮こまって感情を殺す事で自分を守り、母を庇おうとすらしなかった淳生への、罰なのか。
淳生の弱さが、母を犯罪者にしてしまった。
何故。
どうして。
どうして……あの時。
握った包丁から伝う赤い鮮血に濡れた手を力無く下ろし、母は淳生の存在を認識して力無く笑った。その時、感じてしまった安堵感を今更ながら恥じると同時に、淳生は思った。
どうして母さんは、俺も殺してくれなかったんだ。
××××
――……いつまでそうしていただろう。
砂場の子供は、いつの間にかいなくなっていた。
プラスチックのバケツとスコップだけが、その場に残された。
もうそろそろ帰らないと世津子が心配する。
騒がれると色々面倒臭いので、重い腰を上げようとした、その時。
甲高い泣き声が聞こえた。
あまり滑舌の良くない……幼い女の子、だろうか。
ひたすら何かに謝っている。
「ごめんなさいっ、ごめんなさい、もうしません、ごめんなさい!」
その激しい泣き声が、感情を剥き出しにして許しを乞う事しか出来なかったかつての幼い自分と重なって、つい動きを止めてしまった。
段々、こちらに近づいてきているようだ。
無意識に公園の入口に視線をやると、丁度若い女性が横切るところだった。
若さに反して、化粧の濃い横顔だ。
毒々しい赤い唇を引き攣らせ、高い位置でくくった茶髪を揺らして振り返ったかと思うと、女性は人目をはばからずヒステリックに叫んだ。
「さっきからうっせぇんだよクソガキ!!あんたがあのタイミングで飛び出すのが悪いんでしょ!?」
高いヒールを踏み鳴らし、厚化粧が剥がれそうな大声を張り上げるさまは何とも醜い。
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