短篇
□落花 生
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ある日の事です。運悪くAと幼なじみは席替えで隣同士になってしまったのです。
その時の僕の気持ちが分かりますか。僕は幼なじみの後ろの席でした。不公平です。僕の方が彼女を愛しているのに。Aの意地悪に嫌がる彼女を毎日見なくてはならないんです。あいつの太い首を何度絞めてやろうと思った事でしょう。
Aはわざと教科書を忘れたふりをして……いや、あの豚は馬鹿だから素で忘れ物をしたのかもしれません。幼なじみと机を密着させ、にやつきながら臭い息を吹きかけ、彼女の横顔をじっと見つめます。僕には分かりました。後ろの席だから。
正直に言えば僕も、すぐに飽きるだろうと思っていました。あの年頃の男子なんてそんなものです。あっちこちで取っ替え引っ替え女子を構います。僕は言うまでもなく幼なじみ一筋です。将来は結婚するつもりでした。……本気でしたよ。
ですが、Aは飽きる事なく事あるごとに幼なじみにちょっかいをかけました。周囲は見て見ぬふりです。Aは見た通り短気で力の強いやつでしたからね。
僕も同じように傍観に徹していた訳じゃありません。
ずっと“我慢”していました。
つい、手が出そうになると幼なじみが宥めてくるんです。
まるで甘えるように、大丈夫だからとトロンとした目で。でも少し青い顔をして言うんです。
僕には前科がありました。
幼稚園の時に同じ組の男の子をジャングルジムから突き落とした事があります。幼なじみと作った砂のお城を崩して、彼女を泣かせたからです。
遥かの下の地面が血に染まっていく様に、結局彼女はまた泣いてしまったんですけど。
その時僕は、幼なじみの前で感情任せの軽率な行動は取らないようにと、学習しました。
でも、そんなもの、本当の憎しみの感情の前では無意味です。
僕はとうとう行動を起こしてしまいました。
確か、一年生の三学期の頃でした。
あまり事を荒立てたくなかったんで、当初考えていた出刃包丁は止めて、百円コーナーのカッターナイフを使う事にしました。
登校してすぐAの腹の脂肪を突き刺してやりました。抵抗する隙なんてあたえませんし、勿論一度なんかじゃ済みません。えぐるように三ヵ所は刺しました。
教室は大騒ぎになりました。女子は騒がしく泣いて、男子はみっともなく腰を抜かしました。外で刺してやればよかった。
当然、幼なじみもその場に居合わせました。いつも一緒に登下校してますから、その日だって例外ではありません。
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