黒子籠球
□平々凡々
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「おかえり」
「おう」
気だるそうにネクタイを外す彼の手から鞄を預かる。相当疲れているのか、私の頭をくしゃりと撫でると廊下を過ぎリビングへと向かい、どかっと腰をおろした。
「お疲れさま。大丈夫?」
「あー…マジ課長うざくて。刺したくなった」
「もう、すぐまたそういうこと言って」
見た目はいいのに口が悪いのは昔からだ。まぁ社会人になってからは本音と建前を使い分けるようになってはいるが。
「ご飯食べる?」
「そうだな、腹減った。つか今日の飯なに?」
「んー?しょうが焼きのつもりだけど」
「了解。作ってる間にオレ、シャワー浴びてくるわ」
「はーい」と返事してタオルを渡す。適当に下着やら寝間着やら置いて、私は夕食の準備を始める。といってもたれ作って浸すだけだが。
ちなみにこの家は私の家だ。元々一人暮らしなのだが、たまに彼…清志が泊まりに来るという半同棲状態。一人暮らし用に部屋を選んでいるから、狭いし脱衣場はないし、2人で暮らすには手狭である。けれどまだお互い社会人なりたてで、お金も貯めなきゃいけないから同棲ということはできなかった。…清志としては同棲したかったみたいだが。
「暑ぃー…」
「あ、ちょっと待ってて。すぐできるから」
「あー…、じゃあオレ適当に髪乾かしてる」
風呂上がりも勝手知ったるもので、ドライヤーを取り出し髪を乾かし始める彼。私は味噌汁とかサラダとか作って机に並べる。
支度ができると、彼もドライヤーの手を止めて食卓についた。
「いただきます」
「…おー」
清志は食べながらケータイをポチポチ。好きなアイドルのブログか時事経済のニュースサイトでも見ているのか真剣にケータイの小さい画面をにらめっこしている。私は特に咎めるでもなくテレビをぼんやりと眺めていた。
食事を終えると食器を下げて、机を拭く。ふぅ、と一息つけば、彼はベッドの上でゴロゴロしながらケータイを弄っていた。
「寝るよー、明日も早いんでしょう?」
「おー…」
私もベッドに上がって彼に抱きつくように乗っかる。未だ上半身裸な彼に、「…腹筋薄くなってる」とぼやけば「うっせ」と押し倒された。
「何か清志老けたね」
目の下にクマができているせいか何となくやつれた印象を持ち、輪郭をなぞりながら呟く。すると、「はぁ?轢かれたいの?」と明らかに怪訝そうな顔をする清志は私を力の限り抱き締めてきた。
「く、苦しい…!ギブ、死ぬ…っ!」
「死ねよ、もう」
「うわ、酷っ」
「ばっか、冗談だよ」
そんなやりとりをしながら、お互いに抱き締めあったまま。何となく暑い気もしたが、体温が心地よくて離れる気はおきなかった。
「なー」
「ん?」
「この家どぉよ」
見せられたのは彼のケータイ。ピントが巧く合わなくてしげしげと覗き込めば賃貸マンションがずらり。え?これって…と顔を上げれば「もう一緒に住んだっていいだろ」と照れ臭そうに吐き出す清志。
「さっきから見てたのって、これ?」
「…あー…、まぁな」
お気に入り、といくつかマークつけたものはどれもこれも2人で暮らすには都合よさそうな新築ばかり。値段はそれなりに張るが、出せない金額ではない。というか…
「同棲して、もし籍入れることになったとしても都合いいだろ?…ほら、別に引っ越さなくてもいいし。あー今のとこの違約金は払うことになるだろーけど」
まさかこんなに考えてくれてるなんて思わなくて、嬉しくて思わず自らキスして彼を押し倒した。
「清志、大好き!」
「おー、」
照れてる彼を可愛く思いながら、何度も何度もキスをしたらぐるりと視界が反転した。
挑発したの、お前だからな
(ちょ、清志、何盛って、ぁ…!)
(大丈夫、避妊はちゃんとしてやっから)