発達心理学レポート
「乳幼児期の言語獲得における生得的要因と
環境要因の影響の考察」

参考文献 
・岩立志津夫・小椋たみ子編著「シリーズ/臨床発達心理学C 言語発達とその支援」,ミネルヴァ書房,2002

・内田伸子責任編集、内田伸子他執筆「新・児童心理学講座 第6巻 言語機能の発達」,金子書房,1990

・小林春美・佐々木正人編「子どもたちの言語獲得」,大修館書店,1997








 まずは、生得的要因が子どもたちに与える影響について考察してみようと思う。考察する前に言語獲得における生得的要因を簡単にまとめようと思う。この生得的要因を言語獲得理論で説明したのが、チョムスキーである。岩立他によると、彼は、人間の脳内に文法に関する知識がmental organ(普遍文法)という形で生得的に獲得していると主張している。そして、このmental organ(普遍文法)こそが、言語獲得装置であると述べている。これでなぜ、言語を獲得できるのか。岩立他によると普遍文法の状態から言語データに触れるという経験を持つことにより、大人のような話し方ができるようになるのである。また、内田他によると、訓練や模倣や強化が言語獲得に及ぼす影響は小さいもので、子どもたちが自発的に大人の発話を手掛かりとして、自分なりの規則を作り上げ発話しているのである。あくまで子どもたち主体なのである。
 以上のまとめより、乳幼児期の子どもたちが言語獲得において生得的な要因の影響をどのように受けているのかというと、子ども自身の意識の中に生得的な要因の影響を受けていると考えられる。なぜなら、子どもたちが大人たちの発話を基に自分なりに規則を作って発話したり、普遍文法が言語データに触れる経験を持つことによって話せるようになったりするという論があるからである。この2つの論に共通しているのは、「子どもたちの意識の中で起こっている」ということである。なぜ、意識の中で起こっているといえるかというと、自分なりの規則を作るというのは、発話ができない段階では、書き留めることは不可能である。そして、言語データに触れる経験というのは、なかなか表現化できないものである。よって、意識の中で起こるといえるのである。これが、乳幼児期における言語獲得の生得的な要因の考察である。
 次に環境要因について考察してみようと思う。考察する前に、言語獲得(発達)における環境要因について、簡単にまとめようと思う。小林他によると、子どもが人間的な養育環境を無くしたまま放置された場合、早期の死亡を免れず、また、言語発達に大幅な遅滞と及ぼすとしている。また、スピッツは動物心理学者のローレンツの説に従い、人間には発達の上での敏感期(臨界期)が存在すると提唱した。この時期に、人間は必要な条件が与えられるか否かにより、その後の発達が通常通りの発達を見せるか、発達遅滞が起こるかに大別されるのである。環境要因の影響を挙げる上で、このような例がある。小林他の本にあった、FとGの事例である。この事例は1972年10月、6歳の姉(F)と5歳の弟(G)が戸外の小屋に放置されているのが発見され、救出されたものである。そして、児童相談所付属の施設に入れられ、乳児院で過ごすことになった。知能のレベルはかなり低く、満1歳程度かそれをやや上回る程度しかなかった。言語も姉が数語発話できるが、弟は発話できなかった。典型的な発達遅滞の状態であった。この発達遅滞の原因は何かを探る中で、遺伝子検査が行われたが、遺伝子に問題はなかった。しかし、2人が乳児院に入った後は爆発的な発達を見せ、順調に回復していったのである。その後、大人との社会的接触がなかったこと、親代わりであった姉2人による不完全な養育、テレビや本などでできる感覚的・文化的刺激の欠如を含む環境刺激の欠如、栄養不給などの複合的な要因が原因となり極度の発達遅滞を引き起こしたと判明した。
 以上のまとめより、乳幼児期の言語獲得における環境要因の影響を、どのように受けているのかというと、今後の言語生活においてとても重大な影響を受けていると考えられる。つまり、この環境要因が欠如してしまうと、言語生活が全く成り立たないのである。なぜなら、まとめに挙げたFとGの事例から、生育環境が悪いと社会的生活のみならず、言語においても極度の発達遅滞を引き起こす、数語しか発話できないとなると言語生活に重大な影響を及ぼすからである。乳幼児期の言語獲得において、環境要因というのは今後の生活を左右する、非常に重要なものであるのである。これが、乳幼児期における言語獲得の環境要因の考察である。
 ここまで、生得的な要因、環境要因がどのように乳幼児期の言語獲得に影響を及ぼすか述べてきたが、いずれにも共通するのが、子ども自身が置かれた環境である。大人が発話する機会に居合わせなければ、生得的な要因からくる言語獲得も環境要因からくる言語獲得もできないのである。つまり、言語獲得には養育者である親との接点が非常に重要なのである。

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