ついんず

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『そうそうお前ら、オーディションの事誰にも言うなよ』

「えっ、なんでっすか。俺もう校内新聞用に記事書いちゃったっすよ」

『速ぇよ、っつーかなんでだ。まだお前ら2人にしか言ってないんだから』

「じゃあ亜久津さんにも言ってないんですか?」

『あぁ。暫く言う気はねぇしな』

「(それってつまり、俺>亜久津さんってことか…!)黙ってます!」


日吉の笑顔は、それはそれは輝いていたと言う。

















放課後の風紀室。カタカタと山田のキーボードの音がする中晶がベランダのきゅうりを世話していた。うちの日課!花が咲き始めたきゅうりが可愛くて仕方ない。オーディションも大事だが、丹精込めて育ててる野菜も大事だった。

「よう晶、オーディション受けるんだってな」

『…なんで知ってるんすか。っつーかなんでいるんすか、五十嵐先生』


がちゃり、とドアが開いて入って来たのは風紀委員会の顧問、五十嵐だった。氷帝に風紀委員会が出来たのも、晶が風紀委員長をやっているのも全てこの男が一枚噛んでいた。ピシリとしたスーツを着こなし、銀縁眼鏡をかけたこの男は文句のつけようのないイケメンで腹が立つ。そしてにこやかな笑顔に丁寧な物腰で非の打ち所がないような五十嵐は、生徒に大人気の先生だ。…表向きは。

「俺に隠し事しようなんざ10万年早ぇ。つーか俺が顧問してんだし、ここにいようがいいだろ。ここじゃねぇと煙草吸えねぇんだよ」


風紀室に来たとたん眼鏡を外し、ネクタイを緩め、悪どい顔をしながら煙草を吸う男が表向きには真面目野郎だなんて信じられないが。でもやはり風紀委員会の顧問を務めるならこのくらいキャラが濃い方がちょうどいいのかもしれない。でもちょっとキャラ委員共濃すぎねぇか…?最近不安。でも自分だってキャラが濃いから仕方ない。


『いい加減風紀委員だけじゃなくて、表向きにも本性表してくださいよ。面倒くせぇんで。…だいたいここだって禁煙だ、禁煙。外行け』

「全く…。神崎さんは酷いですね…。私に出て行けだなんて」

『その声も喋り方も表情も止めてくれ…』

「こっちこそお前に敬語使うなんて願い下げに決まってんだろ」


表向きの話し方をし始めた五十嵐に心底げっそりした顔をした晶に、鬼頭は煙草の煙を吹きかけた。
うわっ最悪!
っつーか晶、何タメ口きいてやがる。敬え、俺を。
…無理っすわ。


「そうそう、てめぇに渡すもんがあるんだった」


五十嵐はきゅうりの世話を終えて中に入ってきた晶の目の前の机にバサリと紙束を投げた。投げた本人は部屋にある給湯質に入って行った。ぐおんぐおんと換気扇の音がするので、そこで煙草を吸っているのだろう。部屋で煙草を吸うなと言うのを少しは聞いてくれているらしい。


『…なんすか、これ』


投げられた紙束を見ればでかでかとマル秘と書いてある。

『…見ていいんすか、これ』

「今日の会議の資料なんだがな、議題はこの学校の問題だとか、生徒の素行だとか、いじめだとか、そんなもんだ。どうせ後々お前の耳に何らかの形で入ってくるんだから今それを見たって構わねぇだろ」


いくつかお前から聞いた話しもあるしな。と付け加えた。


『わかりましたよ、目ぇ通しておきます』


ばさりと紙束をめくった。…何枚あるんだよコレ。重量感のある紙束に少し嫌になった。


「まァ…なんだ、オーディション頑張れよ」

『……はい』


いつの間にか換気扇は止まっていて紙束を読む晶の目の前に五十嵐がいた。


「俺が応援してやってるんだ、当然受かるんだろ?」

『当たり前っすよ』


五十嵐は晶の返事ににやりと笑うと、ぐしゃぐしゃと晶の髪を撫でた。
髪型を崩されて睨む晶の視線をものともせずに眼鏡をかけてネクタイを治すと、全身に消臭スプレー(衣服用、無香料)をかけて、軽く香水をかけた。

「それでは神崎さん、また明日」

胡散臭い笑顔と敬語を使いながら五十嵐はでていった。これで風紀委員以外には本性がバレないというのだから不思議。

晶は山田のカタカタというキーボードの音をBGMに紙束を読み始めた。









乾がレギュラー落ちした話を聞いたのは、そのすぐあとのことだった。


*****
ちょっと展開の巻



→五十嵐、山田の基本スペック(オマケ)
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